コイレ・シリア

コイレ・シリアの概要

コイレ・シリア（Coele-Syria）は、シリア南部の歴史的地域で、言葉の意味は「くぼんだシリア」です。この地域は、レバノン山脈とアンチレバノン山脈に囲まれたベッカー高原を指す場合が一般的ですが、広義にはユーフラテス川の南側に広がる地域、つまりフェニキア、ユダヤ地方、現代のシリア南部やヨルダン、レバノン、イスラエル、パレスチナをも含みます。この地は、ヘレニズム時代、セレウコス朝シリアとプトレマイオス朝エジプトの争いの焦点でもありました。

歴史的背景

ディアドコイ戦争とシリア戦争

古代において、この地域はメソポタミアやペルシャ、さらには南のエジプトとの間で繰り広げられた争いの舞台でした。特に、紀元前333年から332年にかけてアレクサンドロス大王がこの地域を征服しエジプトに進出したことが、その象徴的な出来事です。アレクサンドロスの死後、彼の後継者たちは内戦を繰り広げ、シリアが重要な戦場となりました。

具体的には、紀元前320年にはプトレマイオスがシリアの太守ラオメドンを打ち破り、コイレ・シリアを含むシリア全域を迅速に占領します。その後、苦境に立たされたプトレマイオスが反アンティゴノス同盟に加わり、再度コイレ・シリアを巡る争奪戦が繰り広げられました。アンティゴノスの息子デメトリオスとの接触など、権力の変動が続きました。

シリア戦争の発展

紀元前274年以降、コイレ・シリアにはシリア戦争と名づけられた複数の軍事衝突が発生します。これには、以下の主要な戦争が含まれます：

• - 第1次シリア戦争（紀元前274年 - 紀元前271年）
• - 第2次シリア戦争（紀元前260年 - 紀元前253年）
• - 第3次シリア戦争（紀元前246年 - 紀元前241年）
• - 第4次シリア戦争（紀元前219年 - 紀元前217年）
• - 第5次シリア戦争（紀元前202年 - 紀元前195年）
• - 第6次シリア戦争（紀元前170年 - 紀元前168年）

これらの戦争は、プトレマイオス朝とセレウコス朝の権力闘争を象徴し、コイレ・シリアの持つ戦略的重要性を示しています。

文化的影響

ヘレニズム期には、コイレ・シリアにギリシャ式の都市が多数建設され、その中でもデカポリスと呼ばれる都市群が有名です。これらの都市ではヘレニズム文化が栄え、ギリシャ語が話される一方で、現地のナバテア人やアラム人、ユダヤ人など多くのセム系民族も居住していました。ギリシア式の都市が立ち並ぶ中、文化の交流が行われ、地域社会に多様性が見られました。

ローマ時代の変遷

ローマ帝国の時代には、コイレ・シリア地域はシリア属州、アラビア属州、ユダヤ属州といった形で区分されました。2世紀末にはローマ内戦が勃発し、シリア属州が193年に分割され、北の「シリア・ポエニケ」と南の「シリア・コエレ」となりました。これにより、地域の政治的な配置が新たに改編されたのです。

まとめ

コイレ・シリアは、その地政学的な特性と歴史的な重要性から、古代の多くの戦争の舞台となってきました。ヘレニズムと民族の混淆が生じることで文化的な影響をもたらし、後の歴史に大きく寄与した地域であることが理解されます。

もう一度検索