コスモス379号

コスモス379号

コスモス379号（ロシア語表記: Космос-379、英語表記例: Cosmos 379）は、1970年に旧ソビエト連邦がその宇宙開発プログラムの一環として地球周回軌道へ投入した無人の宇宙船です。このミッションの主目的は、ソ連が進めていた有人月探査計画で使用される予定だったLK月着陸船の技術的検証を行うことでした。特に、月面への降下や月面からの離陸といった、月着陸船の最も重要な運用段階における主要なエンジン噴射や、月周回軌道上の母船（LOK）とのランデブーおよびドッキングといった一連の動作を、実際の月に近い環境ではないものの、地球周回軌道上で模擬的に実施し、その性能と信頼性を評価することが目指されました。

この重要な試験機は、1970年11月24日にバイコヌール宇宙基地からソユーズロケットによって打ち上げられ、所定の地球周回軌道への投入に成功しました。軌道投入後、約3日半が経過した時点で、最初の主要な試験運用が実施されました。これは、月軌道から月面へ向けて減速し降下する際に用いられるエンジン噴射を模倣したものでした。この大規模な噴射により、宇宙船の軌道は元の近地点高度約192km、遠地点高度約233kmから、近地点高度約196km、遠地点高度約1206kmという、より楕円率の高い軌道へと変更されました。この軌道変更は、月面降下プロセスにおける推進系の性能を確認するために不可欠なものでした。

さらに、軌道投入から約4日後には、次の主要な試験が実施されました。これは、月面から再び月周回軌道へ上昇する際に必要な加速を模倣した噴射でした。この操作によって、宇宙船の軌道はそれまでの近地点高度約188km、遠地点高度約1198kmから、近地点高度約177km、遠地点高度約1万4041kmへと、さらに大きく遠地点高度が引き上げられた非常に細長い楕円軌道へと移行しました。これは、月面からの離陸・上昇段階におけるエンジンと軌道制御システムの性能を検証するための重要なステップでした。

これらの主要な試験噴射に加え、コスモス379号は、LK月着陸船が月周回軌道で母船であるLOK（ルナ・オービタル・コラブル、月周回船）と会合し、結合するプロセスを模擬するための小規模な噴射による軌道変更試験も複数回実施しました。これらの試験を通じて、月着陸船の推進システム、誘導・航法・制御（GNC）システム、そして自動ランデブー・ドッキング機構に関連する様々な技術要素が地球周回軌道上で評価されました。これらの試験結果は、ソ連の有人月着陸計画の実現可能性を判断する上で極めて重要なデータとなりました。

全ての計画された軌道上試験を終えた後、コスモス379号はそのまま地球周回軌道上に留め置かれました。長期間にわたり宇宙を漂いましたが、地球大気の微細な抵抗によって徐々にその軌道が減衰していきました。そして、打ち上げから約13年後の1983年9月21日、最終的に地球の大気圏に再突入し、燃え尽きてそのミッションを終えました。この無人試験飛行で得られた貴重なデータは、ソ連の月着陸船開発に貢献しましたが、結局ソ連はアメリカ合衆国に先んじて有人月面着陸を達成することはできませんでした。コスモス379号は、ソビエト連邦の壮大な有人宇宙計画の一端を担った重要な機体として歴史に名を残しています。

関連項目

LK (着陸船)
ソ連の有人月旅行計画
* コスモス衛星

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