コスモス434号

コスモス434号（Kosmos 434）

コスモス434号とは、1970年代のソビエト連邦が推進していた有人月着陸計画において開発されていた月着陸船（ランダー）「LK」の無人試験飛行ミッションの一つです。特に、LKの地球軌道上での飛行試験としては、このコスモス434号のミッションが最後となりました。

LK月着陸船計画における位置づけ

ソ連は、アメリカのアポロ計画に対抗する形で有人月着陸を目指しており、そのためにN-1ロケットや有人宇宙船LOK（月周回モジュール）、そして月面に着陸するためのLK着陸船などを開発していました。LKは一人乗りの小型着陸船で、LOKから分離して月面に着陸し、再び月周回軌道に戻ってLOKと再ドッキングするという運用が想定されていました。しかし、N-1ロケットの開発難航や、他の計画の優先度上昇などにより、ソ連の有人月着陸計画は最終的に達成されませんでした。

コスモス計画の一環として行われたLKの無人試験飛行は合計4回実施されました。これらの試験は、月周回軌道や月面への着陸、そして月面からの離陸といった、月探査におけるLKの基本的な飛行性能やシステムを地球軌道上で事前に確認することを目的としていました。コスモス434号は、これら一連の試験飛行の最後を飾る機体となりました。

ミッションの詳細

コスモス434号は、1971年8月12日に打ち上げられました。このミッションでは、LKのエンジンの燃焼試験などが行われ、過去3回の無人試験飛行と比較して最も長い燃焼時間を記録しました。これは、LKの推進システムが比較的長時間の運用にも耐えうることを示す重要な成果でした。一連の試験運用の後、コスモス434号は最終的に、近地点約186キロメートル、遠地点約11,804キロメートルという、大きく歪んだ楕円軌道に投入されました。これらの軌道上での試験を通じて、LK着陸船が設計通りの飛行性能を有し、宇宙空間での運用に耐えうる頑健性を持っていることが実証されたのです。この試験結果は、ソ連の有人月着陸計画において、LKが着実に開発段階を進んでいたことを示しています。事実、ソ連の有人月着陸計画における各モジュールの中で、実際に飛行試験段階まで到達したのは、このLK月着陸船モジュールが唯一でした。

大気圏再突入と国際的な懸念

コスモス434号は、打ち上げからおよそ10年後の1981年8月22日、ついに大気圏に再突入することになりました。その再突入がオーストラリア上空で起こる可能性が予測された際、国際社会、特にオーストラリアを中心に、ある懸念が持ち上がりました。それは、この長期間軌道上にあった正体不明の大型物体が、核燃料などを搭載しているのではないかというものでした。冷戦時代における宇宙開発は情報の透明性が低く、軌道上の物体の正確な情報を得ることが困難であったため、このような不安が増幅されたと考えられます。

事態を重く見たオーストラリア政府からの問い合わせなどに対し、ソビエト連邦外務省は公式な見解を表明しました。その内容は、コスモス434号が「月キャビンの実験ユニット」であったというものでした。この表現は、直接的に「LK月着陸船」とは述べていませんでしたが、ソ連の月計画に関連する実験機体であることを初めて公式に認めるものであり、国際的な懸念を和らげる役割を果たしました。

まとめ

コスモス434号のミッションは、ソ連の有人月着陸計画において、重要な構成要素であるLK月着陸船の飛行性能を実証した最後の無人試験でした。この試験は、LKが実際に宇宙空間で運用可能であることを示し、計画の進捗におけるマイルストーンとなりました。一方で、その後の長期間にわたる軌道滞留と再突入時に発生した国際的な懸念は、冷戦下の宇宙開発における情報公開の課題と、その後の宇宙活動における透明性の重要性を浮き彫りにする出来事でもありました。

このミッションに関する情報は、『Mir Hardware Heritage』といった資料にも記録されており、ソ連の宇宙開発史における一幕として語り継がれています。

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