コティングリー妖精事件

コティングリー妖精事件：妖精写真の謎と真実

1917年、イギリスのヨークシャー州コティングリー村で発生した「コティングリー妖精事件」は、妖精写真の真偽をめぐる長く続く論争として知られています。この事件の中心人物は、従姉妹であるフランシス・グリフィスとエルシー・ライトの2人の少女でした。彼女たちは、妖精と共にある様子を捉えたとされる5枚の写真を撮影したと主張しました。

これらの写真は、当時の人々を魅了し、妖精の存在を信じる人々にとって決定的な証拠と見なされました。写真には、羽根を持ち、小さく可愛らしい妖精の姿が写っており、その精巧な作りは、多くの者を信じる気にさせました。中でも、著名な作家アーサー・コナン・ドイルも、この写真に強い関心を示し、妖精の実在を確信するに至りました。

しかしながら、この写真が捏造であるという疑惑は、当初から存在していました。妖精の描写が不自然であったり、写真の技術的な問題点が指摘されたりしたのです。例えば、妖精の輪郭が非常に鮮明であるのに対し、背景はぼやけており、これは妖精が写真撮影の際に、固定された物体であった可能性を示唆していました。

そして、事件から数十年後、高齢者となったフランシスとエルシーは、この写真が捏造であったことを告白しました。彼女たちは、妖精の形をした紙の切り抜きを作り、それを帽子止めのピンを使って固定し、撮影したと説明しています。1915年発行の絵本『Princess Mary's Gift Book』に掲載された妖精の絵を参考に、それを模倣して作成したとされています。

5枚の写真のうち、4枚については捏造を認めましたが、1枚の写真については、生涯にわたって本物であると主張し続けました。この告白によって、コティングリー妖精事件は、多くの者の幻想を打ち砕く結果となりましたが、同時に、人々の想像力と信じる心の強さ、そして、写真というメディアの持つ影響力の大きさを改めて示すものとなりました。

この事件は、写真が必ずしも真実を反映しているとは限らないことを示す、教訓的な事例となりました。また、当時の人々の妖精に対する信仰や関心の高さを反映しており、社会文化的な背景も理解する上で重要な事件と言えるでしょう。

事件の背景と影響

コティングリー妖精事件は、単なる写真の捏造事件として片付けることはできません。この事件は、妖精という神秘的な存在への憧憬や、現実世界を超えたものへの強い願望が反映されていると考えられます。第一次世界大戦後の社会不安定な時代背景も、人々を妖精という幻想的な存在に惹きつけた一因かもしれません。

また、アーサー・コナン・ドイルをはじめ、多くの著名人がこの写真に魅了されたことは、当時の社会における妖精信仰や超常現象への関心の高さを示すものです。コナン・ドイル自身も、霊媒術や超常現象に強い関心を抱いており、この事件を通して、彼自身の信じる心や科学的な思考との葛藤が垣間見られます。

今日、コティングリー妖精事件は、虚実のはざまにある物語として、多くの研究者や作家たちに語り継がれています。この事件は、写真の信憑性、人々の信仰、そして、科学と超常現象の境界線について改めて考えるきっかけを与えてくれるでしょう。

関連書籍

ジョー・クーパー『コティングリー妖精事件』（井村君江訳、朝日新聞社）
アーサー・コナン・ドイル『妖精物語――実在する妖精世界』（近藤千雄訳、コスモ・テン・パブリケーション）
アーサー・コナン・ドイル『妖精の出現――コティングリー妖精事件』（井村君江訳・解説、あんず堂）
新版『妖精の到来――コティングリー村の事件』（アトリエサード）
スティーヴ・シラジー『妖精写真』（宇佐川晶子訳、早川書房）- 小説
『コティングリー妖精事件　イギリス妖精写真の新事実』（井村君江・浜野志保 編著、青弓社）
* 『妖精が現れる！　コティングリー事件から現代の妖精物語へ』（アトリエサード）

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