井村君江

井村君江：妖精研究のパイオニア、波乱万丈の生涯と輝かしい業績

井村君江氏は、1932年生まれの日本の英文学者、比較文学者であり、ケルト・ファンタジー文学、特に妖精研究の第一人者として知られています。明星大学名誉教授、フェアリー協会会長、イギリス・フォークロア学会終身会員という輝かしい肩書きを持ち、福島県と宇都宮市に妖精美術館を設立するなど、その活動は多岐に渡ります。

壮絶な人生と学究の道の歩み

栃木県宇都宮市の旧家に生まれた井村氏は、幼少期から特異な境遇を経験します。生後まもなく母親が実家へ帰ったため、実母と会うことはありませんでした。その後、美学者である井村陽一氏と結婚するも、若くして夫を亡くす悲しみを経験します。しかし、悲しみにくれることなく、彼女は学び続ける道を選びます。

青山学院大学文学部英文科卒業後、東京大学大学院比較文学比較文化専攻に進学。修士論文では『日本におけるオスカー・ワイルド』という500ページにも及ぶ大作を執筆し、周囲を驚かせました。その後、鶴見女子大学（現・鶴見大学）で教鞭をとりながら、ケンブリッジ大学やオックスフォード大学でも客員教授を務めるなど、国際的な活躍も果たしています。

さらに、イギリスの英文学者ジョン・ローラー氏と再婚するも、1999年には脳梗塞で倒れ、左半身不随となります。同年、夫を亡くすという二度目の大きな悲しみを経験しました。しかし、それらの困難を乗り越え、闘病生活を送る傍ら、講演や執筆活動など精力的に活動を続けました。

妖精研究への情熱と宇都宮妖精ミュージアム

井村氏の研究活動の中心は、ケルトの妖精文学にあります。彼女は、膨大な知識と情熱を注ぎ込み、数々の著書や翻訳を発表しました。その著作は、ケルト神話からアーサー王伝説、個々の妖精の種類や生態まで幅広く網羅し、今日でも多くの研究者やファンに愛読されています。中でも、独自の視点と深い洞察に基づいた『ケルト妖精学』は、彼女の代表作の一つと言えるでしょう。

2003年には、生まれ故郷の宇都宮市にケルト・妖精関係資料を寄贈。これを受け、2007年には世界的にも珍しい妖精をテーマにした美術館「うつのみや妖精ミュージアム」が開館しました。井村氏は名誉館長として、妖精研究の普及に貢献しました。

多彩な活動と後世への影響

井村氏の活動は、学術研究にとどまりません。日夏耿之介全集の編集、上皇后美智子への妖精文学に関する進講、様々な講演活動など、多岐に渡ります。また、芦原英了氏と共に『シャンソンに親しむ会』で活動していた経験から、来日したジョセフィン・ベイカーに楽屋でお茶を出すなど、多彩なエピソードも数多く残されています。

井村君江氏は、学究の道を歩みながら、人生の様々な困難を乗り越え、妖精研究という独自の分野を開拓しました。彼女の生涯と業績は、後世の研究者や妖精ファンに大きな影響を与え続けることでしょう。彼女の著作は、今もなお多くの人々に読み継がれ、妖精への関心を高め、幻想的な世界への扉を開き続けています。

主要な著書・翻訳

彼女の著作は多岐に渡り、ケルト神話、アーサー王伝説、妖精に関する研究論文から、翻訳作品、エッセイまで網羅されています。その膨大な著作リストは、彼女の並々ならぬ努力と妖精研究への情熱を物語っています。代表的な作品には、『ケルトの神話 女神と英雄と妖精と』、『妖精の国』、『妖精の系譜』、『ケルト妖精学』などがあります。また、W・B・イエイツやキャサリン・M・ブリッグズなど、多くの妖精文学の古典作品を翻訳し、日本の読者にもケルト文化や妖精の世界を紹介する役割を果たしました。

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