コネクトーム

コネクトームとは

コネクトーム（connectome）は、生物の神経系の構造を詳細に示す地図のことを指します。具体的には、ニューロンやそのグループ、脳の特定の領域間の接続状態を視覚化したものです。この言葉は、英語の「接続する」という意味の「コネクト（connect）」と「全体」を意味する接尾語「-オーム（-ome）」から成り立っています。特に人間の神経回路地図に関しては、「ヒト・コネクトーム（Human connectome）」と呼ばれます。コネクトームを研究する学問分野は「コネクトミクス」として知られています。

研究の現状

ヒトゲノムが2003年に解読された一方で、ヒト・コネクトームの解明はまだ始まったばかりです。人間の脳には約1000億個の神経細胞が存在し、それらの間に約1兆もの接続があると考えられています。この複雑さは、30億の塩基対から成るヒトゲノムをはるかに上回ります。そのため、コネクトーム研究の進展には新たな技術的アプローチが必要とされています。

細胞間の接続状態がよく理解されている生物の例には、線虫であるセンチュウ（C. elegans）があり、この生物は302個の神経細胞を持っています。最近では、ショウジョウバエの脳全体の接続状態も明らかになりつつあります。しかし、哺乳類の神経系は個体によって大きな違いがあり、学習や記憶によって神経回路が常に変化するため、コネクトームを定義することは難しいとされています。

研究方法

コネクトームの解明に使用される研究手法には、伝統的な組織学的手法があります。これには、細胞を染色して光学顕微鏡で観察する方法や、放射性同位体を使用して接続状態をトレーシングする方法、電子顕微鏡で切片像を再構築する方法が含まれます。しかし、これらの伝統的手法には限界があります。たとえば、光学顕微鏡は解像度の制約があるため、広範囲の接続性を調べるのが難しいです。また、トレーサーを利用した神経解剖学的方法は、特定の細胞群や線維経路の特定に限られることが多いです。電子顕微鏡を用いた手法も、ヒトの脳のような大きな構造に対しては適用が困難です。

近年、神経系の接続状態を細胞レベルで解析する新技術が開発され、研究の可能性が広がっています。例えば、ブレインボウ（Brainbow）技術は、蛍光タンパク質を使用して各神経細胞を異なる色で示すことができ、これにより神経回路の視覚化が可能となります。

さらに、拡散テンソルイメージングという技術では、脳内での水分子の動きを撮影することで、神経線維の向きを把握することができます。これらの新しい技術は、コネクトームの解明に向けた新たな希望を提供しています。

参考文献

• - 坂田秀三(2007) 「大脳皮質の中のモチーフ : 計算論的神経解剖学とネットワーク科学の接点」 日本神経回路学会誌 Vol.14, No.3 pp.205-217

関連項目

• - 計算論的神経科学
• - ニューラルネットワーク
• - グラフ理論
• - Blue Brain Project
• - コネクトミクス

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