コボルト

コボルト（Kobold）

コボルトは、ドイツの民間伝承に登場する家の守護精霊です。ドイツ語で「kobold」と書き、「kobolt」「kobold」「kobolde」と綴られることもあります。日本の座敷童子のように家に住み着き、様々な影響を与える存在として知られています。

概要

コボルトはドイツ、デンマーク、オーストリア、スイスなどで語り継がれる精霊で、特にドイツ各地で様々な亜種が存在します。彼らは家の精として、家事を手伝う一方で、いたずら好きで、扱いを間違えると報復を行うとされています。毎晩、台所にミルクとパンを備える習慣がある地域もあります。

コボルトは最初は騒がしいだけの見えない精霊（ポルターガイスト）として現れることが多いですが、次第に言葉を話し始め、用事やいたずらをするようになり、その存在や人格が鮮明になっていくというパターンが見られます。

コボルトの報復譚

コボルトの報復譚は古くから存在します。例えば、家の精ヒュートヒェン（「小帽子」の意味）が、ヒルデスハイム司教の城館に取り憑いた話は、1500年頃の書物に記録されており、1130年頃の出来事として語られています。この精霊は、厨房の小僧に汚水をかけられた腹いせに、少年のバラバラ死体を鍋の湯に残していったとされています。

また、メクレンブルク城のヒメッケン（Chimmeken）が、1327年に供物のミルクを盗み飲んだ小僧を八つ裂きにしたという逸話も、史家のトーマス・カンツォヴによって伝えられています。

多様な姿を持つコボルト

「多形状の」ヒンツェルマンは、台所の整理などを行う家の精霊ですが、多様な変身をするのが特徴です。フーデミューレンの館では、家人に見えない姿で話しかけたり、厨房の雑務をこなしたりしますが、馬車で逃げ出した主人に羽毛となって密かに付いてきたり、祓おうとすると貂や蛇に変身したりする場面があります。

コボルトの名前

似た名前のハインツラインは、宗教家のマルティン・ルターが殺された子供の精霊として『卓上語録』で取り上げています。コボルトの名前（ハインツ、ハインツェル、ハインツヒェン、ハインツェルマン、ヒンツェルマンなど）は、ハインリヒという人名の短縮形に由来します。ただし、ヒンツェルマンの名は、猫の姿をしていることに由来するという説もあります。また、ヒンツェルマンと、ケルン市のお手伝い精霊として有名なハインツェルメンヒェンは、容姿的にも性格的にも明確に区別されるべきだとされています。

コボルトの正体

コボルトは子供の姿で現れることが多いとされ、洗礼を受けずに死んだ子供の成れの果てであるという伝承もあります。殺された子供が、ナイフの刺さった姿で現れることもあると言われています。

グリム兄弟の『ドイツ伝説集』では、綺麗な上着の子供の姿で目撃されるという伝承が収録されていますが、ヤコプ・グリムの『ドイツ神話学』では、赤毛と赤いあごひげが特徴だとされています。しかし、具体的な例は挙げられていません。後年の解説者は、ペーターメンヒェンが長くて白いあごひげを蓄えた城館のコボルトの霊として挙げています。

コボルトの追い払い方

コボルトを追い払うのは困難だとされていますが、衣服の贈り物をもらうと、その家から退散しなければならないという言い伝えがあります。

コボルトの帽子

ヤーコプ・グリムは、コボルトが赤いとんがり帽子をかぶる傾向があると指摘していますが、これはノルウェーのニッセなど、他の国の家の精にも共通する特徴です。ドイツ北部や北東部にも、ニスやプークといったとんがり赤帽子をかぶる家の精霊がいます。

コボルトの語源

コボルトの語源は、kob/kof（家/室）とwalt（力、権力者）から成るとされています。ただし、古いドイツ語の例はなく、kuba-walda、kobwalt、kofewaltなどが再構成されています。最古の13世紀頃の例では、「Kobold」は木彫りか蝋細工の人形のことで、冗談まじりに用いられています。

コボルトの亜種

コボルトには、ヒンツェルマン、ヒメッケン、ニスプーク、ドラク、シュラートなど、多くの亜種が存在します。また、ポルターガイスト的なポッペレ、ブッツ、クロップファーなどもコボルトに含められることがあります。ケルンのハインツェルメンヒェンもその一種です。

神話学的な解釈

神話学的な解釈では、「竈や火の崇拝信仰」が「家屋の守護神」へと進化する傾向があり、ゲルマンの竈神がコボルトに進化したと考えられています。

コボルト人形

コボルトの最古の使用例は、13世紀の中高ドイツ語の例で、木製や蝋製のコボルト人形を揶揄的に扱ったものです。これらの人形は、マリオネット人形劇にも使われたことが示唆されています。

鉱山の精霊としてのコボルト

元素コバルトは、16世紀の鉱夫が「コベルト鉱」と呼んだ鉱石に由来しますが、鉱山の精霊にちなむ鉱石名だとされています。鉱山の精は「コベル」や「山の小人」と呼ばれ、ノームとして分類される傾向があります。クラバウターマンは船に宿る精霊ですが、コボルトの一種に数えられることもあります。

まとめ

コボルトは、ドイツの伝承に深く根ざした、多様な姿と特性を持つ家の精霊です。その存在は、人々に畏怖と親しみを抱かせ、様々な物語や文化に影響を与えてきました。

参考文献

グリム兄弟『ドイツ伝説集』
ヤーコプ・グリム『ドイツ神話学』
ローズマリ・E・グィリー『妖精事典』
C・ローズ『世界の妖精・妖怪辞典』
* 他多数

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