コルクバット

野球で用いられるコルクバット（英語：corked bat）とは、バットの内部を不正に改造し、主に軽量化を目的としてコルクなどの密度の低い物質を充填した特殊なバットを指します。打者がより速いスイングを可能にし、打撃のタイミングを改善する可能性が期待されることから用いられます。しかし、一般に信じられてきたような、コルクを詰めることによる「トランポリン効果」で打球の飛距離が伸びるという考えについては、物理学的な研究によってその効果が直接的に飛距離増大に寄与するわけではないと否定されています。

改造方法と構造的な問題

コルクバットへの改造は、通常、バットの最も太い先端部分から、直径約13ミリメートル（約0.5インチ）の穴を深さ約15センチメートル（約6インチ）ほど開けることから始まります。この開けられた空間に、細かく砕いたコルクやスーパーボール、あるいは木屑といった軽量な材料を詰め込みます。詰め物を終えたら、接着剤と木屑などを用いて穴を塞ぎ、外見からは改造が分からないように偽装されます。しかし、このような内部のくり抜きと詰め物の充填は、バット自体の構造的な強度を著しく低下させるという深刻なデメリットを伴います。特に、詰め物を深くするほど、バットがボールとの衝突時に折れやすくなるリスクが増大します。そのため、打撃の瞬間にバットが破損し、その際に改造された内部が露見することで、不正が発覚するケースも少なくありません。

期待される効果と実際の検証

コルクバットの使用によって得られるとされる効果については、以前は内部の素材が反発力を高め、「トランポリン効果」によって飛距離が増すと考えられていました。しかし、最新の研究では、この効果が飛距離を直接的に伸ばすという説は否定されています。一方で、コルクバットのもう一つの主な目的である軽量化は、実際にバットのスイング速度を向上させる可能性があります。より速くバットを振れることは、打者にとって有利に働くように思えますが、物理学的には、バットが軽くなることでボールとの衝突時の反発エネルギー伝達効率が悪化し、打球速度が低下するという側面も存在します。このため、スイング速度の向上によって得られるアドバンテージが、打球速度の低下によって相殺され、結果として飛距離に大きな影響を与えない可能性が指摘されています。ただし、バットが軽くなることで、打者がスイングの始動をわずかに遅らせることが可能となり、これにより投球をより長く見て、正確なコンタクトに繋げられるという、打撃タイミングの面での利点があるかもしれません。

メジャーリーグにおける規則

メジャーリーグベースボール（MLB）では、コルクバットの使用は明確な反則行為として、公式ルールブックの規則6.03(a)(5)に規定されています。この規則では、打者が飛距離を増す目的や、異常な反発力を生み出すような改造や変更が施されたと審判が判断するバットを使用、あるいは使用しようとした場合、反則行為によりアウトが宣告されます。この改造行為には、バットへの詰め物、表面を平らに削る加工、釘などの異物の打ち付け、内部の空洞化、溝の追加、あるいはパラフィンやワックスのような物質を表面に塗布することなどが含まれます。コルクバットの使用が発覚した場合、その打者はただちにアウトを宣告されるだけでなく、試合からの退場処分、さらにはリーグからの追加制裁（罰金、出場停止など）といった重い罰則の対象となります。

使用の歴史と主な事例

コルクバットを含むバットの不正改造は、野球の歴史の中で繰り返し問題となってきました。特にメジャーリーグにおいては、1970年以降、試合中にコルクバットの使用が発覚した選手が少なくとも6名存在することが記録されています。また、過去にはより広範な使用があった可能性も指摘されています。例えば、メジャーリーグで選手として活躍し、後に監督も務めたフィル・ガーナー氏は、2010年にラジオ番組で、現役時代にピッチャーのゲイロード・ペリーと対戦した際にコルクバットを用いてホームランを打った経験があると公言しています。さらに、スポーツ専門メディアであるDeadspinは、2010年に、ピート・ローズ氏がタイ・カッブ氏の持つメジャーリーグ最多安打記録を更新した1985年のシーズンで使用していたとされるバットについて、複数のコレクターが所有するものをX線検査した結果、コルクバットの特徴を示す証拠が見つかったと報じました。これらの事例は、コルクバットが野球における不正行為の歴史の一部であることを示しています。

コルクバットの事例は、野球における様々な不正行為の一つとして、パインタール事件（滑り止めの松ヤニの規定量超過が問題となったケース）などと共に、しばしば議論の対象となります。野球における公正なプレーを保つ上で、バットを含む用具の規則遵守がいかに重要であるかを物語っています。

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