コロの大さんぽ

コロの大さんぽ：迷子の子犬と、優しい街の物語

『コロの大さんぽ』は、三鷹の森ジブリ美術館で2002年から上映されている、宮崎駿監督による短編アニメーション作品です。上映時間は約15分と気軽に楽しめる作品ながら、その魅力はジブリ作品らしい繊細な描写と、心温まるストーリーに凝縮されています。

物語は、好奇心旺盛な子犬コロが、飼い主の少女サワ子を追いかけることから始まります。家の外へ飛び出したコロは、思いがけず迷子になってしまいます。見知らぬ街をさまようコロの冒険を通して、作品は現代日本の街並みを優しいタッチで描いています。

宮崎駿監督作品としては珍しく、スタジオジブリのある小金井市東小金井界隈が舞台となっています。そのため、作品に描かれる街並みは、現実の街並みを思わせるリアリティを感じさせ、観る者に親近感を与えます。自転車に乗った女性や近所の人々など、コロは様々な人々と出会い、それぞれの温かさに触れていきます。

本作の大きな特徴の一つは、その背景美術です。当初は他のジブリ作品同様、精緻なポスターカラーによる背景美術が予定されていましたが、制作途中で絵本画家の林明子の画風を参考に、絵本のような優しい雰囲気の背景美術に変更されました。この変更によって、作品全体に温かみのある、ほのぼのとした雰囲気を与えることに成功しています。

また、コロのリアルな描写も見どころの一つです。子犬の持つ無邪気さや愛くるしさ、好奇心や不安といった感情が、細やかなアニメーションによって生き生きと表現されています。コロの表情や仕草一つ一つに、命が宿っているかのような躍動感があり、観る者の心を掴んで離しません。

さらに、『コロの大さんぽ』は、聴覚障害者への配慮として字幕版も用意されています。字幕版では、音響効果もマイルドに変更されているというこだわりも見られます。ジブリ美術館地下一階の映像展示室『土星座』で随時上映されており、1時間ごとに字幕版の上映も予定されています。

宮崎駿監督、芳尾英明氏（演出アニメーター）、吉田昇氏（美術）、野見祐二氏（音楽）といった、ジブリを代表するスタッフ陣によって制作された本作は、ジブリ作品としてのクオリティの高さを改めて示しています。また、本作の原画を担当した森田宏幸氏は、その後『猫の恩返し』の監督に抜擢されるなど、本作が多くの才能を育むきっかけにもなったと言えるでしょう。

制作過程では、宮崎監督の方針変更によってボツになった背景画の一部は、男鹿和雄画集IIに収録されているとのことです。こうした裏話を知ることで、作品への理解がより深まることでしょう。

『コロの大さんぽ』は、短い上映時間の中に、ジブリ作品の魅力が凝縮された、珠玉の短編アニメーションです。迷子の子犬の冒険を通して、現代社会の温かさや人々の優しさを再確認できる、心温まる作品と言えるでしょう。ぜひ、三鷹の森ジブリ美術館で、この感動を体験してみてください。

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