コンウィ城

コンウィ城：ウェールズ征服の歴史を刻む中世の要塞

コンウィ城は、イギリス、ウェールズ北部のコンウィ川河口に位置する、威風堂々とした城塞です。1283年から1289年にかけて、イングランド王エドワード1世がウェールズ征服の拠点として築城を開始しました。総工費は1万5000ポンドという、当時としては莫大な費用が投じられました。

エドワード1世のウェールズ征服とコンウィ城の建設

13世紀、イングランド王エドワード1世はウェールズへの支配権確立を目指し、度重なる侵攻を行いました。1282年の征服後、エドワード1世はコンウィを新たな行政中心地と定め、既存の修道院を移転させた上で、その跡地にコンウィ城と城壁都市を建設しました。これは単なる軍事拠点ではなく、イングランドの支配を示す象徴的なプロジェクトでもありました。

築城は熟練の石工、マスター・ジェイムズを筆頭に、イングランド全土から集められた多数の労働者によって行われました。城は外郭と内郭の二層構造で、8つの巨大な円塔と2つのバービカン（外堡）によって厳重に防御されていました。コンウィ川に面した裏門（搦手）は、海からの補給路として機能しました。イギリス最古級の石造り出し狭間や、保存状態の良い王室の私室なども残されており、中世の軍事建築技術の高さを物語っています。

激動の歴史：戦争と変遷

コンウィ城は、その後数世紀にわたって幾多の戦乱を経験しました。1294～1295年のマドッグ・アプ・ルウェリンの反乱では包囲を受けましたが、堅牢な防御によって持ちこたえました。14世紀末にはリチャード2世の避難場所となり、1401年にはオウェン・グリンドゥールの反乱軍に一時占領されるなど、歴史の大きなうねりを目の当たりにしてきました。

イングランド内戦（1642～1646年）では、チャールズ1世派の拠点となりましたが、最終的に議会派に陥落。その後、軍事利用を防ぐために一部が破壊され、残った鉄や鉛も撤去されたため、17世紀半ばには廃墟と化していました。

しかし、18世紀末以降は絵画の題材として注目を集め始め、J・M・W・ターナーを始め多くの画家がコンウィ城を描きました。観光客の増加に伴い、19世紀後半から修復工事が開始され、現在ではカドゥ（Cadw：ウェールズ歴史環境庁）によって管理・保存されています。

壮大な建築：構造と特徴

コンウィ城は、長方形の平面を持つ城塞です。地元産の石材に加え、遠くクレイジン半島やチェスターからも運ばれた石材が使用されています。外郭には門衛の詰所、城代や衛兵の居住区、パン焼き場などが配置されていました。内郭には王室の私室があり、これらはイングランドとウェールズで最も保存状態の良い中世王室の私室群として高く評価されています。

各塔には付属の小塔（タレット）があり、防御と王室旗の掲揚の両方に利用されたと考えられます。この設計は、サヴォイア伯国の城郭建築様式と密接な関係があり、マスター・ジェイムズの影響が強く見られます。窓の様式、狭間胸壁、足場の組み穴などは、サヴォイア様式の特色を反映しています。

世界遺産としてのコンウィ城

コンウィ城は、その歴史的・建築的価値から、1986年に「グウィネズのエドワード1世の城郭と市壁」としてユネスコ世界遺産に登録されました。ヨーロッパにおける13世紀後半から14世紀初頭の軍事建築の優れた例として、世界中から観光客が訪れる人気の観光地となっています。現在も継続的な保存・修復作業が行われ、その歴史と魅力は未来へと受け継がれています。2019年には、日本の姫路城と姉妹城提携を結び、国際的な交流も進められています。

コンウィ城は、単なる石造りの建物ではなく、ウェールズの歴史、軍事建築技術、そして国際交流の歴史が凝縮された、貴重な文化遺産です。

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