コンジット・カット

コンジット・カットは、1950年代末期から1960年代初頭にかけて、ロンドンのメイフェア地区、コンジット通りで隆盛したスーツスタイルです。

コンジット・カットの概要

サビルロウ通りのテーラー街に隣接するコンジット通りには、当時、革新的なテーラーたちが集まりました。彼らが手がけたスーツは、従来のロンドン・カットとは一線を画し、フランスやイタリアの影響を受けたコンチネンタルスタイルに近いものでした。

コンジット・カットで特に有名なテーラーとしては、Cyril CastelとAnthony Sinclairが挙げられます。

Cyril Castelはコンジット通り42番地に店を構え、新しいスタイルに敏感な俳優や富裕層を顧客に持ちました。彼は、胸元を豊かに強調する「スウォールン・チェスト」や、ヨーロッパ大陸の最新トレンドを取り入れたカッティングを提案し、当時のファッションシーンに新たな風を吹き込みました。

Anthony Sinclairはコンジット通り43番地に店を構え、1950年代のパリやローマのスタイルを取り入れたスーツを仕立てていました。彼を一躍有名にしたのは、映画「007シリーズ」で初代ジェームズ・ボンドであるショーン・コネリーが着用したスーツです。当時の映画監督テレンス・ヤングが彼を贔屓にしていたことは、多くの文献にも記されています。映画「007 サンダーボール作戦」のエンドクレジットには、ショーン・コネリーの仕立て人としてAnthony Sinclairの名前が明記されています。

コンジット通り周辺の新進テーラーたちが手がけたコンジット・カットには、明確な定義や特徴は存在しません。しかし、サビルロウの伝統的なテーラーとは異なるアプローチで、当時としては斬新でモダンなスーツを仕立てていたという点で共通しています。あえて特徴を挙げるとすれば、1950年代末から見られるようになったミニマルなスタイルであり、英国の伝統的なスタイルよりもヨーロッパ大陸の国際的なセンスに注目した点と言えるでしょう。

アメリカン・スーツの影響を指摘する意見もありますが、サックスーツのルーツはアメリカに出稼ぎ・移民したイタリア系やユダヤ系の仕立て職人の仕事にあります。英国スーツの構築性を持つコンジット系のスーツとは、その点で関連性は薄いと言えるでしょう。

コンジット・カットに共通する特徴として挙げられるのは、ラテン系のスーツに見られる、チェスト部分からポケットを通り過ぎて裾にまっすぐ落ちる「エクステンド・ダーツ」です。このダーツは、ボディラインを美しく見せる効果があり、コンジット・カットのスーツに洗練された印象を与えています。

コンジット・カットは、既成概念にとらわれず、新しい時代のスタイルを追求したテーラーたちの情熱と創造性によって生まれた、ロンドン発のユニークなスーツスタイルと言えるでしょう。

関連項目

ジェームズ・ボンド

外部リンク

CONDUIT CUT

もう一度検索