コンスタンティン・シチェルバコフ

コンスタンティン・アレクサンドロヴィチ・シチェルバコフ氏は、1963年6月11日にロシアのアルタイ地方バルナウルに生まれた、現代を代表するヴィルトゥオーゾ・ピアニストです。

彼の音楽的な才能は幼少期から顕著であり、わずか11歳でベートーヴェンのピアノ協奏曲第1番を演奏して公式デビューを飾りました。その後、ロシアが誇る名門、モスクワ音楽院に進学し、伝説的な教育者として知られるレフ・ナウモフ教授のもとで深い音楽的教養と高度な演奏技術を習得しました。

学生時代から国内外の数多くの著名な音楽コンクールで優秀な成績を収め、その実力を証明しました。特に、1983年に初めて開催されたラフマニノフ国際コンクールでの優勝は、彼の国際的なキャリアにおける重要な転機となりました。この栄誉は、若きシチェルバコフ氏を一躍世界の舞台へと押し出すきっかけとなったのです。

彼の演奏活動の中でも特筆すべき出来事として、1990年にイタリアで開催された第20回オソロ室内楽音楽祭において、セルゲイ・ラフマニノフのピアノ独奏曲全曲演奏という壮大なプロジェクトを成し遂げたことが挙げられます。この前例のない偉業は、当時この音楽祭に滞在していた20世紀最大のピアニストの一人、スヴャトスラフ・リヒテル氏から惜しみない称賛を受け、伝説的なエピソードとして広く知られることとなりました。

シチェルバコフ氏は演奏活動と並行して、後進の指導にも情熱を注いでいます。1998年からは、スイスにある権威ある音楽教育機関、チューリッヒ芸術大学（旧チューリッヒ音楽大学）でピアノ科の教授を務め、世界中から集まる若い才能の育成に貢献しています。

現代における屈指の技巧派ピアニストとして世界的に評価されている彼は、特に超絶技巧と広範なレパートリーを要する作品の録音に積極的に取り組んでいます。ナクソス・レーベルからは、フランツ・リストによるベートーヴェン交響曲全曲のピアノ編曲版や、ニコライ・メトネルのピアノ協奏曲全曲といった、技術的・音楽的に極めて困難な作品の全集をリリースしています。また、マルコ・ポーロ・レーベルからは、技巧の極致とされるレオポルド・ゴドフスキーの膨大なピアノ独奏曲全集や、セルゲイ・リャプノフの超絶技巧練習曲全曲といった意欲的なプロジェクトを実現してきました。

彼の精力的な録音活動は続き、2020年にはベートーヴェンのピアノソナタ全曲録音を完遂させました。長年にわたるゴドフスキーのピアノ独奏曲全集録音プロジェクトは、2023年に全15巻をもって一旦完結しましたが、ゴドフスキー作品の一部シリーズ（オペラティック・マスターピーシズおよびプログレッシヴ・シリーズ）は録音対象外となりました。一方で、ゴドフスキーがショパンのエチュードを基に作曲した練習曲全曲の録音は、その完成時においてシチェルバコフ氏が最年長での演奏記録であることでも特筆されます。その他にも、ヨハン・シュトラウス2世のワルツ編曲集（EMIクラシックス）など、多岐にわたる作品を録音しており、そのレパートリーの広さと技術的な正確さ、そして深みのある音楽性によって、多くの聴衆を魅了し続けています。

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