コンソート

コンソート（Consort）

コンソートとは、主に16世紀後半から17世紀にかけて、特にイングランドで隆盛を極めた器楽アンサンブルの一形式を指します。この言葉はもともと「合奏」という意味を持ち、当時の音楽文化において、様々な楽器が集まって楽曲を演奏することを意味していました。ドイツなどイングランド以外の地域でも行われていましたが、特にイングランドにおいて独自の発展を遂げました。

楽器編成による分類

現代の音楽学では、コンソートは楽器の編成によって大きく二つに分類されるのが一般的です。かつては、楽器の種類の多寡に関わらず、器楽による合奏全般を指す用語として用いられていましたが、研究が進むにつれてより厳密な区分がなされるようになりました。

ホール・コンソート（Whole Consort）

同属コンソートとも呼ばれるホール・コンソートは、ヴァイオル属やリコーダー属など、同一の楽器ファミリーに属する楽器のみで編成されたアンサンブルを指します。例えば、大きさの異なるヴァイオル（トレブル、テナー、バスなど）のみで構成されたヴァイオル・コンソートはその代表例です。同属楽器ならではの統一された音色と柔らかな響きが特徴で、ルネサンス音楽から初期バロック音楽にかけて、室内楽の重要な形態として愛されました。

ブロークン・コンソート（Broken Consort）

混合コンソートとも呼ばれるブロークン・コンソートは、ヴァイオル属、リコーダー属、リュート、ヴァイオリン、チェンバロなど、性質の異なる様々な楽器を組み合わせて編成されます。異なる音色の楽器が組み合わされることで、ホール・コンソートよりも色彩豊かで多様な響きが生まれます。特にエリザベス朝時代のイングランドで人気を博し、当時の宮廷や貴族の館で盛んに演奏されました。

歴史と主要作曲家

コンソート音楽は、イングランドの音楽史において非常に重要な位置を占めます。エリザベス1世の治世（エリザベス朝）はコンソート音楽の黄金期と言われ、多くの優れた作曲家がこの形式のために作品を残しました。

エリザベス朝を代表する作曲家としては、リュート音楽でも知られるジョン・ダウランド（John Dowland, 1563-1626）が挙げられます。彼の有名なパヴァーヌ《ラクリメ（Lachrimae）》は、ヴァイオル・コンソートやブロークン・コンソートのために編曲され、広く親しまれました。他にも、アンソニー・ホルボーン（Anthony Holborne, ?–1602）やウィリアム・バード（William Byrd, 1543-1623）といった大家たちが、コンソートのための洗練された楽曲を作曲しています。

エリザベス朝に続くジェームズ1世の時代（17世紀初頭）も、コンソート音楽の伝統は引き継がれました。トマス・ルポ（Thomas Lupo, 1571-1627）、オーランド・ギボンズ（Orlando Gibbons, 1583-1625）、ジョン・コプラリオ（John Coprario, c.1570/80-1626）、アルフォンソ・フェッラボスコ2世（Alfonso Ferrabosco the younger, c.1575-1628）などが、この時代の主要なコンソート作曲家として知られています。彼らは、より対位法的な技法を取り入れたり、楽器編成の可能性を探求したりと、コンソート音楽を発展させました。

17世紀後半に入ると、イタリアやフランスから流入した新しい音楽様式（特にヴァイオリンを中心としたバロック音楽）が主流となっていきますが、それでもコンソート音楽の伝統は完全に途絶えることはありませんでした。クリストファー・シンプソン（Christopher Simpson, c.1605-1669）、ウィリアム・ローズ（William Lawes, 1602-1645）、そしてバロック期の巨匠ヘンリー・パーセル（Henry Purcell, c.1659-1695）といった作曲家たちも、コンソート、特にヴァイオル・コンソートのための優れた作品を残し、この古くからのアンサンブル形式の魅力を後世に伝えています。

コンソート音楽は、当時の室内楽や舞曲、ファンタジアなど、多様なジャンルで作曲され、その精緻な対位法や豊かなハーモニーは、後続の器楽音楽の発展に大きな影響を与えました。

現代への名残

コンソートという言葉自体は、現代英語の成語「in consort」の中にその名残を見ることができます。これは「協調して」「調和して」「連携して」といった意味で使われ、かつて様々な楽器が一体となって音楽を奏でたように、人々や組織が協力し合う様子を表す言葉として生き続けています。

このように、コンソートは単なる過去の器楽アンサンブル形式ではなく、ルネサンス後期から初期バロックにかけての音楽文化を理解する上で欠かせない重要な概念であり、その言葉は現代にも引き継がれています。

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