コントラスツ

コントラスツ Sz.111（BB 116）



ベーラ・バルトークが1938年に完成させた『コントラスツ』Sz.111は、クラリネット、ヴァイオリン、ピアノという異色の編成による三重奏曲です。原題は英語で「Contrasts」と記され、「対比」や「対照」といった意味を持ちます。この作品は、作曲者自身の故郷であるハンガリーやルーマニアなど、トランシルヴァニア地方の多様な民俗舞曲の要素と、委嘱者のバックグラウンドであるジャズの雰囲気が見事に融合された、バルトークの室内楽における重要なレパートリーの一つとなっています。

総譜にバルトーク自身が記した日付によれば、作品は1938年9月24日に完成しました。演奏時間は約16分から17分で、作曲者自身も「16分くらい」と書き残しています。

作曲の経緯



この作品は、1938年夏にヨーロッパ滞在中だったジャズ界の巨匠、クラリネット奏者ベニー・グッドマンからの委嘱を受けて作曲されました。依頼の仲介役となったのは、バルトークの同胞であり、アメリカで活躍していたヴァイオリニストのヨーゼフ・シゲティです。シゲティはグッドマンと親交があり、彼らがリビエラで会った際に、3人で共演できる楽曲をバルトークに依頼しようということになったのです。

1938年8月11日付のシゲティからバルトークへの手紙では、ヴァイオリンとクラリネットそれぞれに見せ場となる華やかなカデンツァが含まれること、そしてかつて作曲された『ピアノとヴァイオリンのためのラプソディ』のように、演奏時間6～7分程度の2楽章構成を想定していたようです。しかし、バルトークはこれをさらに発展させ、最終的に3楽章からなる、当初の想定よりも規模の大きな作品として完成させました。

楽譜は1942年に出版され、作品は委嘱者であるヨーゼフ・シゲティとベニー・グッドマンに献呈されています。

初演



作品の初演は2段階で行われました。


楽曲構成



『コントラスツ』は、対照的な性格を持つ以下の3つの楽章から構成されています。作品全体を通して、トランシルヴァニア地方の民俗音楽、特に舞曲のリズムや旋律が色濃く反映されています。また、委嘱者のグッドマンに配慮し、ジャズ音楽の活気に通じるような要素も取り入れられています。

第1楽章 ヴェルブンコシュ（Verbunkos）



ハンガリーの「ヴェルブンコシュ」と呼ばれる徴兵の踊りを基にした楽章です。三部形式で書かれています。冒頭、ヴァイオリンによる躍動的なピッツィカート（シゲティはラヴェルのヴァイオリンソナタの「ブルース」楽章との関連を示唆しています）が現れた後、クラリネットが主要な主題を奏で始めます。この主題は様々な形で変奏されながら展開していきます。

第2楽章 ピヘネー（Pihenő）



「休み」あるいは「休息」という意味を持つ楽章です。この楽章は、バルトークの作品にしばしば見られる「夜の音楽」に通じる、内省的で静寂に満ちた性格を持っています。民謡からの直接的な引用は少なく、明確な主題らしい主題を持たず、楽器の音色や響きが繊細に移り変わっていくことで音楽が形作られます。

第3楽章 シェベシュ（Sebes）



「速い」という意味の、熱狂的な踊りの楽章です。三部形式に基づいています。ヴァイオリンが特殊な調弦（スクオルダトゥーラ、G♯-D-A-E♭）で奏でる強烈な響きで幕を開けます。この独特の響きは、ロマ音楽などのヴァイオリン奏法に由来すると考えられます（途中で通常の調弦に戻す指示はありますが、多くの場合、この楽章専用に別のヴァイオリンが用意されます）。その後、クラリネットが主要な舞曲主題を導入し、活発な展開が繰り広げられます。中間部ではテンポが緩やかになり、例えば3+2+3+2+3/8といったブルガリアの民俗舞曲に特徴的な複雑な混合拍子が用いられ、リズム的な「対比」が際立ちます。その後、最初の急速な舞曲が回帰し、熱狂的に終結します。

『コントラスツ』は、バルトークが新しい環境（アメリカ）への移住を控える中で作曲され、彼の民族音楽への深い関心と、新たな音楽的刺激（ジャズ）への開放性を示す作品として位置づけられています。三つの楽器それぞれの特性が最大限に引き出され、その名の通り、様々な「対比」が聴き手を魅了する傑作です。

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