コンパクト (化粧品)

コンパクトの歴史とデザイン

コンパクトは、持ち運び可能な化粧道具入れとして知られています。金属製のケースに手鏡、フェイスパウダー、パフなどが収納されており、現代でも根強い人気を誇るアイテムです。しかし、その歴史は、化粧という行為が社会的に広く受け入れられるようになる以前から始まっています。

黎明期：隠された化粧道具

1900年代初頭、化粧は必ずしも社会的に容認されたものではありませんでした。そのため、初期のコンパクトは、杖や宝飾品、帽子飾りなどに巧妙に隠されて持ち運ばれていたと言われています。

1896年には、アメリカでハンドバッグメーカーが、頬紅や櫛などを収納できる蓋付きのバッグを製造。1908年には、手鏡とパフが入った小型の金属製ケースがカタログに掲載され、ハンドバッグに入れて持ち運べる手軽さが謳われました。

装飾品としてのコンパクト

アメリカでは、Evans and Elgin Americanなどの企業が、長い鎖の付いた装飾的なコンパクトを製造しました。これらは、ハンドバッグに入れるというよりも、むしろアクセサリーとしての役割が強かったようです。この時代の多くのコンパクトは、アールデコ様式の影響を強く受けており、洗練されたデザインが特徴です。

女性の社会進出とコンパクト需要

化粧が一般的になり、女性の社会進出が進むにつれて、コンパクトの需要は飛躍的に増加しました。イギリスの化粧品メーカー、ストラットン社は1923年からアメリカの未完成品を輸入し、イギリス国内で組み立て、1930年にはイギリス国内で消費されるコンパクトの半分以上を自社生産するまでに成長しました。1948年には、自動開閉の内蓋を開発、パウダーの保護と爪の破損防止に貢献しました。1960年代には、世界中にコンパクトを輸出するまでに発展しました。

デザインの変遷と多様性

コンパクトのデザインは、常に時代の流行を反映してきました。1920年代の自動車普及期には、車のダッシュボードやハンドルなどにコンパクトが組み込まれる例も見られました。ヴァンクリーフ＆アーペル、ティファニー、カルティエなどの高級宝飾ブランドも、コンパクトを収納できる小型バッグ（ミノディエール）を製造し始めました。

1930年代には、流行に合わせてデザインが頻繁に更新され、鏡拭き用のワイパーが付いた製品も登場しました。また、シカゴ万博やニューヨーク万博といったイベントのお土産としても人気を博しました。

コンパクトの衰退

1960年代まで広く普及していたコンパクトですが、使い捨てのプラスチック容器が登場したことで、人気は徐々に衰え始めました。1950年代からプラスチック容器の宣伝が盛んに行われたこと、そして、化粧のトレンドが白塗りから自然な肌色へと変化したことも、コンパクトの衰退を加速させた要因と考えられています。

まとめ

コンパクトは、単なる化粧道具入れではなく、時代の変化や女性の社会進出を反映するアイテムでした。その歴史とデザインの変遷は、20世紀の社会文化史を映し出す鏡と言えるでしょう。材質やデザイン、機能性など、多様なバリエーションを持つコンパクトは、現代でもコレクターアイテムとして人気を保ち続けています。

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