コンベックス・コンピュータ

コンベックス・コンピュータ（Convex Computer）は、かつてベクトル型ミニスーパーコンピュータやスーパーコンピュータを製造していた企業です。1995年にヒューレット・パッカード (HP) に買収され、その技術はHPの製品開発に活かされました。

歴史

コンベックスは1982年、ボブ・パラックとスティーブ・ワラックによってテキサス州リチャードソンに設立されました。当初の社名はParsecでした。彼らは、クレイ・リサーチのベクトル計算機に匹敵するアーキテクチャのマシンを、より低価格で提供することを目指していました。コスト削減のため、コンベックスのマシンはクレイほど先進的な技術は用いず、一般的な技術をベースにしていました。その上で、性能面での遅れは別の方法で補うことを意図していました。

最初のマシンであるC1は1985年にリリースされました。C1の設計はCray-1に似ていますが、使用するメモリやCPUは汎用的なものでした。C1の大きな特徴は、ベクトルユニットを追加できる点にありました。ベクトルユニットは128個の64[[ビット]]レジスタを持ち、Cray-1の2倍の容量を誇りました。また、クレイのマシンにはない仮想記憶方式を採用し、プログラミングの容易性を向上させています。CMOSベースのチップながら、ベクトルユニットを追加することで、倍精度（64[[ビット]]）で約20MFLOPS、単精度（32[[ビット]]）で約40MFLOPSの性能を実現し、Cray-1の5分の1程度の性能を達成しました。さらに、自動ベクトル化機能を強化したコンパイラを開発し、既存のプログラムを移植してコンパイルするだけで性能が大幅に向上するように工夫しました。オペレーティングシステムには、BSD系UNIXのConvexOSが採用されました。

C2はC1をクロスバー結合したマルチプロセッサ版であり、1988年に最大4プロセッサ構成でリリースされました。新たにECLチップを使用し、クロック周波数を10MHzから25MHzに向上させることで、1プロセッサあたり倍精度で50MFLOPS（単精度では100MFLOPS）の性能を実現しました。C2はコンベックスにとって最も成功した製品となりました。

C2の後継として、1991年にC3がリリースされました。C2の設計を踏襲しつつ、クロックを向上させ、最大8プロセッサ構成を可能にしました。1プロセッサあたりの性能は50～240MFLOPSでしたが、C3のリリースが遅れたため、市場投入時には競争力を失っていました。

C3・C4では、ガリウムヒ素チップを実装することでさらなる性能向上を目指しました。これはCray-3と同じ方向性でしたが、性能向上は限定的で、市場投入も遅すぎました。この結果、コンベックスは資金難に陥りました。

1994年、コンベックスは全く新しいシステムである'Exemplarを発表しました。従来のCシリーズのベクトル計算機とは異なり、ExamplarはHPのPA-RISCチップを使用した並列コンピュータであり、SCIによるノード間結合技術を採用していました。この開発にあたり、コンベックスはハード・ソフト両面でHPとの技術提携契約を結びました。

1995年、ヒューレット・パッカード (HP) はコンベックス社を買収しました。HPは、コンベックスExemplarマシンをSクラスおよびXクラスとしてHP 9000シリーズの一部として販売しましたが、Exemplarの技術を活かして新たにVクラスを開発しました。

その後、2001年にHPはコンパックを買収し、コンパックの（DEC由来のAlphaベースである）ASCI Qと競合したため、コンベックス由来のHPのHPCシリーズは終息しました。

コンベックス出身の有名人

コンベックスは、コンピュータ関連の著名な人物を数多く輩出しています。

トム・クリステンセン: Perl関連で著名な人物。コンベックスではコンピュータ・クラスターの先駆的なプロジェクトであるConvex Meta Seriesに従事していました。
ロバート・T・モリス: モリスワーム（世界初のインターネットワーム）で知られる人物。コンベックスで研修生として短期間働いていました。
ダン・コノリー: HTML仕様策定で著名な人物。コンベックスでは文書作成ツールチームに所属していました。
マーク・ルッツ: Python関連の書籍の執筆で知られています。
* ブライアン・ベルリナー: Concurrent Versions Systemシステムの作者です。

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