コーカサスオオカブト

コーカサスオオカブト（Chalcosoma chiron）は、コウチュウ目コガネムシ科に属する大型のカブトムシです。3本の長い角が特徴で、アジア最大のカブトムシとして知られています。その闘争心の強さから、ヘラクレスオオカブトと並び「世界最強のカブトムシ」と称されることもあります。

生息地

コーカサスオオカブトは、主に以下の地域に生息しています。

スマトラ島
ジャワ島
マレー半島
インドシナ半島

これらの地域の標高800-2000mの熱帯高地林や雲霧林に生息しており、特に標高1200-1700m付近に個体数が多い傾向があります。「コーカサス」という名前ですが、コーカサス地方には生息していません。名前の由来は、上翅の光沢が「白い雪」を意味する古代スキタイ語に由来するとされています。

形態

体長: ♂75mm - 133mm、♀40mm - 67mm
体色: 頭部と前胸部は黒色、中胸部、後胸部、腹部、脚の腿節および前翅は暗赤褐色から黒褐色。前翅は青銅色、緑銅色、紫銅色、赤銅色などの金属光沢を帯びます。

最大の特徴は、頭部に1本、前胸背板に2本の計3本の角を持つことです。英語では「Three Horned Beetle」と呼ばれています。大型個体では、前胸の中央前端近くに短い角状の突起を持つこともあります。

闘争時には、これらの角と、大きく鋭い爪を備えた長い脚を巧みに使い、相手を挟み込んで投げ飛ばします。前脚の爪は非常に鋭く、人の手や服に掴まると引き剥がすのが困難なほどです。また、前胸背板後縁が刃物状になっているため、不用意に触れると怪我をする恐れがあります。

生態

コーカサスオオカブトは夜行性で、主にジャングルに生えるロタン（籐）に集まり、樹液を吸います。サトウヤシや栽培されたコーヒーノキ、マメ科の木にも集まることが報告されています。天候や栄養状況によっては昼間に活動することもあります。

活発に飛翔し、灯火によく飛来します。ジャングルの腐倒木やその下の土に産卵し、幼虫は朽木や腐葉土を食べて成長します。自然下での成虫になるまでの期間は約2年と考えられています。

野生下での成虫の寿命は不明な点が多いですが、飼育下では半年程度、学術的に確認された例では4ヶ月程度です。自然下では2～3ヶ月程度と推測されています。羽化後2ヶ月程度経過した個体には、脚の付節などの付属肢が壊死・欠落する老化現象が見られます。

性質

コーカサスオオカブトは、非常に闘争心が強いことで知られています。その凶暴さは他の大型カブトムシと比較しても際立っており、同種や他種昆虫だけでなく、交尾相手の雌にも攻撃を仕掛けることがあります。相手を負かすだけでなく、死骸をバラバラにする行動も確認されています。雄だけでなく雌も気が荒いため、成虫の多頭飼育は厳禁です。幼虫も好戦的で、大顎の力が強く、噛まれると痛みを伴うことがあります。

飼育

コーカサスオオカブトは、ヘラクレスオオカブトに比べて飼育がやや難しいとされています。高温に弱いため、15℃～20℃前後の涼しい環境が適しています。日本の夏をクーラーなしで越すのは困難です。また、気が荒いため、雄雌ともに単独飼育が基本です。交尾の際も注意が必要です。

幼虫は、カブトムシ用マットで飼育できます。ただし、卵のままで取り出すと孵化しないことが多いです。飼育下では、角が発達しない短角型の成虫になることが多く、大型化には朽木の使用が有効とされています。

アトラスオオカブトとの関係

コーカサスオオカブトは、アトラスオオカブト属に属しており、アトラスオオカブトなど3種がいます。アトラスオオカブトとは分布域が重なる地域があり、形態も似ているため、区別が難しい場合があります。特に、アトラスオオカブトのフィリピン亜種は、胸角が湾曲するなどコーカサスオオカブトに似ています。雌の区別点としては、アトラスオオカブトの雌の前翅には針毛が生えており、コーカサスオオカブトの雌の前翅には柔らかい微毛が生えていることが挙げられます。

学名の変更

近年、コーカサスオオカブトの学名が Chalcosoma caucasus から Chalcosoma chiron に変更されました。これは、タイプ標本の再検証により、古い学名 chiron が優先されることになったためです。和名も「キロンオオカブト」とすることが提唱されています。

亜種

コーカサスオオカブトには、以下の亜種が存在します。亜種によって、胸角の太さや湾曲の強さ、体の厚さなどに違いが見られます。

ジャワコーカサス (C. c. chiron)
スマトラコーカサス (C. c. janssensi)
マレーコーカサス (C. c. kirbyi)
タイリクコーカサス (C. c. belangeri)

コーカサスオオカブト