コードトーカー

アメリカ先住民の暗号兵：コードトーカー

第二次世界大戦において、アメリカ軍は独自の暗号通信システムとして先住民の言語を用いた「コードトーカー」を運用しました。これは、敵国にとって解読不可能な言語を暗号として用いるという、極めて斬新な戦略でした。本稿では、コードトーカーの活動、歴史的背景、戦後の功績、そしてその映画化について詳細に解説します。

通常の暗号の限界と先住民言語の活用

従来の暗号通信は、暗号機を使用する必要があり、複雑な暗号ほど作成と解読に時間を要しました。戦場では、迅速な情報伝達こそが命取りとなります。簡素な暗号は解読されやすく、複雑な暗号は解読に時間がかかるというジレンマがありました。

そこで注目されたのが、敵にとって未知の言語でした。先住民の言語は、文法構造が複雑で発音も独特なため、部外者には理解が困難でした。第一次世界大戦では、チョクトー族やコマンチ族がコードトーカーとして従軍し、その有効性が確認されました。

ナバホ語の選定と暗号化方法

第二次世界大戦では、ナバホ族の言語が選ばれました。調査の結果、ナバホ語を理解する者は、ナバホ族以外にはごく少数であることが判明したためです。ナバホ語は、複雑な文法と独特の発音に加え、書き言葉が存在しなかったため、解読は極めて困難でした。ヒトラーもナバホ語の解読を試みましたが、失敗に終わっています。

ナバホ語を暗号として用いるにあたり、米軍は独自の暗号化方法を考案しました。まず、英語の単語を別の英語の単語に置き換え、さらにそれをナバホ語に翻訳するという、二重の暗号化を行っています。軍事用語については、特定のナバホ語の単語を割り当てていました。例えば、「潜水艦」は「鉄の魚」、「急降下爆撃機」は「鶏鷹」のように、具体的なイメージを喚起する単語を用いることで、暗号化の効率を高めました。

ナバホ・コードトーカーの訓練と戦場での活躍

ナバホ族のコードトーカーは、8週間の集中的な訓練を受け、膨大な暗号表を暗記しました。彼らは、サイパン島、グアム島、硫黄島、沖縄など、太平洋戦線各地で活躍し、数多くの重要な情報を正確に伝達しました。

日本軍は、ナバホ語の暗号解読に終始失敗しました。これは、ナバホ語の複雑さ、そしてコードトーカーたちの献身的な任務遂行によるところが大きいです。コードトーカーは、捕虜になるリスクを常に抱え、捕虜となった際にはその場で殺害されるという密命を受けていました。これは、暗号が敵に渡ることを防ぐための、極めて厳しい措置でした。

戦後の功績と記憶

戦争後、長らく機密事項とされていたコードトーカーの功績は、1968年に解禁されましたが、広く世に知られるようになったのはそれからかなり後のことです。1982年にはロナルド・レーガン大統領から表彰を受け、2001年にはジョージ・W・ブッシュ大統領から議会名誉黄金勲章が授与されました。

その他の先住民コードトーカーと映画化

ナバホ族以外にも、コマンチ族など、他の先住民もコードトーカーとして従軍しました。ノルマンディー上陸作戦では、14名のコマンチ族がコードトーカーとして活躍しています。

2002年には、コードトーカーを題材とした映画『ウインドトーカーズ』が公開されました。この映画は、コードトーカーの活躍と、彼らを護衛する兵士の葛藤を描いています。しかしながら、歴史的事実とは異なる部分もあり、元コードトーカーからの批判も寄せられています。

結語

コードトーカーの物語は、戦争における情報戦の重要性、そして先住民の言語と文化の独自性、そして献身的な人々の勇気を物語る、感動的な歴史です。彼らの功績は、今後も語り継がれていくべきでしょう。

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