コーラル・プリンセス

コーラル・プリンセス：豪華客船の航跡とパンデミックの影

プリンセス・クルーズ社が運航する豪華客船『コーラル・プリンセス』は、2002年12月、フランスのアトランティーク造船所で建造されました。全長261メートル、総トン数7万7千トンにも及ぶその巨体は、3億6千ドルという巨額の費用を投じて完成しました。987室もの客室を備え、そのうち879室は海側に面した贅沢な造りです。

2003年1月3日、フロリダ州フォートローダーデールを出港。パナマ運河を通るクルーズでデビューを果たし、1月17日にはパナマ運河上にて、当時パナマ大統領であったミレヤ・モスコソ氏によって命名されました。

『コーラル・プリンセス』の最大の特徴は、アラスカ州の海域を航行する際に環境への負荷を最小限に抑えるため、ディーゼルとガスタービンを併用した電気推進システムを採用している点です。これは同型船の『アイランド・プリンセス』にも継承された技術です。

季節に応じて航路を変え、冬季はパナマ運河クルーズ、夏季はアラスカクルーズを運航。2018年には、日本にも初めて横浜港大さん橋国際客船ターミナルに寄港しました。

しかし、2020年、新型コロナウイルス感染症の世界的流行という、前代未聞の事態に見舞われます。同年3月、チリからアルゼンチンへ向かうクルーズ中に船内で感染が拡大。アルゼンチンのブエノスアイレス港では、アルゼンチン国籍者と当日に航空券を持つ乗客を除き下船が認められませんでした。

約1000人の乗客と878人の乗員を乗せたまま、コーラル・プリンセスは中南米沖を彷徨い、寄港地を探し続けることになります。3月31日には乗客7名、乗員5名の感染が確認され、4月4日には乗客2名が死亡するという悲劇が起きました。

その後、アメリカ合衆国がコーラル・プリンセスの受け入れを決定。4月4日、フロリダ州マイアミ港に入港し、感染者15名を除く乗客乗員の下船がようやく許可されました。この出来事は、世界中に衝撃を与え、クルーズ業界全体に大きな影響を与えた出来事となりました。

コーラル・プリンセスは、豪華さの裏に潜むパンデミックという現実を突きつけられた象徴的な存在と言えるでしょう。その航跡は、近代クルーズ船の歴史における重要な転換点を示すものとなりました。

同型船：

アイランド・プリンセス (Island Princess)：2003年6月18日竣工

参考文献：

海人社『世界の艦船 増刊 世界のクルーズ客船 2009-2010』2009年12月号増刊 No.716
海人社『世界の艦船』2003年3月号 No.608
海人社『世界の艦船』2003年5月号 No.610
海人社『世界の艦船』2004年4月号 No.624
海事プレス社『クルーズシップ・コレクション2012-2013』4月臨時増刊

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