ゴア・ガジャ

ゴア・ガジャ：バリ島の神秘的な象の洞窟

ゴア・ガジャは、インドネシアのバリ島、ウブドの東郊外に位置する11世紀に建立されたヒンドゥー教寺院（プラ）です。その名は「象の洞窟」を意味し、寺院はブドゥルの谷間にひっそりと佇んでいます。石窟寺院と長方形の沐浴場からなるこの遺跡は、バリ島の豊かな歴史と文化を今に伝える貴重な場所です。

名称の由来

「象の洞窟」という名称の由来には、いくつかの説があります。

石窟入口にある主要な彫像が象に似ているため
寺院内部に安置されている、象の頭を持つヒンドゥー教の神ガネーシャの石像にちなむ
* かつて付近を流れるプタヌ川が「象の川」と呼ばれていたことによる

バリ島には本来象が生息していませんでしたが、古くから象と何らかの関わりがあったことが、この名称からうかがえます。

歴史

ゴア・ガジャの正確な由緒は不明ですが、精神的な瞑想の場所として11世紀頃に構築されたと考えられています。伝説では、巨人クボ・イワの爪によって造られたとも伝えられています。しかし、石窟内の刻文様式などの検証から、この聖域は11世紀前半、バリ王国の王ウダヤナとジャワの王女マヘーンドラダッターの時代に遡ると考えられています。

ゴア・ガジャはヒンドゥー教の聖域としての機能を果たしていましたが、近くの遺跡や仏教寺院の遺構から、この一帯が初期バリの仏教徒にとっても重要な場所であったことが示唆されています。

14世紀には、ジャワの詩篇『デーシャワルナナ』にゴア・ガジャに関する記述が見られます。1923年にオランダの考古学者によって再発見され、1954年には沐浴場が発見されました。1979年まで発掘と調査が行われ、その全貌が明らかになりました。

ゴア・ガジャ遺跡は、1995年にユネスコの世界遺産（文化遺産）暫定リストに登録されましたが、2015年にリストから削除されています。

構成

石窟寺院の入口には、岩石に刻まれた鬼の顔が訪れる人々を威嚇します。この鬼面は、悪霊を追い払うためのものであり、地界を守護するボーマ（またはキルティムカ）を表していると考えられています。しかし、耳飾りが見られることから、バリに伝わる魔女ランダであるという説もあります。石窟の周囲には、森や動物をモチーフにした彫刻が数多く施されています。

石窟内は高さ2メートル、「T」字型の構造をしています。右（東）と左（西）にはそれぞれ壁龕があり、神像が祀られています。発見当初、洞内には何もありませんでしたが、後に右の壁龕にはシヴァ神の三神一体を象徴するリンガ・ヨニ（トリリンガ）が、左の壁龕にはシヴァ神の息子ガネーシャの坐像が安置されました。

石窟の前方には、女神ハーリティー（鬼子母神）などの彫像があります。ハーリティーは、結跏趺坐で座り、右手で与願印を結び、左手で幼児を抱き、左右に6人の子供たちに囲まれた姿で描かれています。バリ島では、ハーリティーはメン・ブラユトとして知られています。

1950年代に発掘された沐浴場は、南北20メートル、東西7メートルの広さを誇ります。東側の壁面には、ガンジス川、サラスヴァティー川など、7つの聖なる川を表す水差しを持つ女神像（アプサラス）が並んでいます。女神像はかつて7体ありましたが、1体が崩壊により失われ、現在は6体が残っています。

ゴア・ガジャは、その神秘的な雰囲気と美しい景観で、訪れる人々を魅了し続けています。バリ島の豊かな歴史と文化に触れることができる、貴重な場所です。

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