ゴト師株式会社

『ゴト師株式会社』は、下田一仁が原作、佐原充敏が作画を手がけた日本のパチンコ漫画です。『漫画パチンカー』（白夜書房）にて1990年から1996年にわたり連載され、単行本は全10巻が刊行されました。1990年代初頭のパチンコ・パチスロ業界で広く行われていた不正行為、特に「裏ROM」や「注射」と呼ばれるゲーム機改造が常態化していた状況を背景に、こうした不正によって利益を独占しようとするパチンコ店や一部のプロ集団を排除すべく活動する「正義のゴト師集団」の姿を描いた作品です。

作品の概要

物語の舞台は、デジパチや当時は3号機が主流だったパチスロにおいて、機械の改造が公然と行われていた1990年代のパチンコ業界です。正規の運用から逸脱した不正行為によって、一部の者が不当な利益を得る状況が生まれていました。本作の主人公たちは、このような業界の歪みを正すことを目的とする集団です。彼らは単に敵対する不正業者の手口を暴くだけに留まらず、時には必要に応じて自らも「ゴト」（不正な手段）を用いて相手に損害を与えるという、従来の正義の味方とは一線を画した手法を取ります。

特筆すべきは、日本有数の裏ロム師であった原作者の下田一仁氏の視点が色濃く反映されている点です。彼は作品を通じて、裏ROMや注射といった技術そのものを一概に否定していません。むしろ、パチンコ店が客に対して利益を還元したり、ゲーム性を高めるために大当たり確率や連チャン性を向上させる目的で行われる改造については、推奨する姿勢すら見せていました。一方で、当時のパチンコ業界と警察当局との間に存在するとされた癒着構造から生まれる利権に対しては、強い疑問を投げかけています。

当時、導入が始まったばかりのCR機やパチンコ用プリペイドカードシステムに対しても、下田氏は批判的な立場を取りました。射幸心を煽るという理由で従来の連チャン機が規制されながら、カードリーダーが付いているだけで、それらを上回る連チャン性を有するCR機が認可されるのは矛盾していると指摘し、こうした新たなシステムが警察の利権を生む温床になる可能性についても強く懸念を示しました。また、ROMの改変を防ぐことを主な目的として、パチンコ・パチスロ機のメイン基板をCPU、ROM、RAM等が分離した構造からASIC（特定用途向け集積回路）として1チップ化することについても、ASIC化によって製造コストが増加するにもかかわらず、肝心のROM変造防止には効果がないとして反対意見を表明しています。

あらすじ

物語の中心となるのは、表向きはパチンコ店向けのコンサルタント業務を行う企業『Office Z80』です。しかし、これはあくまで仮の姿であり、その実態はパチンコ店を食い物にしようとする悪質なゴト師集団や、裏ROMなどを悪用して不正に得た利益を隠匿・脱税しようとする一部のパチンコ店などを、依頼人の要望に応じて様々な手段で制裁を加えることを生業とするプロフェッショナル集団でした。彼らの元には、今日もまた新たな不正に関する依頼が舞い込み、彼らはその解決のために動き出します。

映画化

『ゴト師株式会社』は漫画作品としてだけでなく、映画としてもシリーズ化され、俳優・根津甚八氏の当たり役の一つとなりました。主なシリーズ作品としては、以下のものが挙げられます。

『ゴト師株式会社悪徳ホールをぶっ潰せ!』（1993年公開）
『ゴト師株式会社2 ゴト師 VS ゴト師』（1994年公開）
『ゴト師株式会社3』（1994年公開）
『ゴト師株式会社スペシャル警察庁防犯課第5104号事件』（1995年公開）

さらに、これらのシリーズ以降も何度か映画化されています。

『ルーキーズ・ゴト師株式会社』（1999年公開）
『ゴト師株式会社ルーキーズ2』（2000年公開）

このように、漫画原作は終了しましたが、その世界観は映画シリーズとして長く展開されました。作品は、当時のパチンコ業界の裏側や不正行為、そしてそれらに立ち向かう者たちの姿をリアルに、かつエンターテイメントとして描き出し、多くの読者や観客に強い印象を与えました。特に、原作者ならではの専門知識に基づいた描写や、業界に対する批判的な視点は、単なる娯楽作品としてだけでなく、当時のパチンコ業界が抱えていた問題点を浮き彫りにする資料としても価値を持つと言えるでしょう。

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