ゴモラ (映画)

イタリア犯罪映画の金字塔『ゴモラ』：暴力と裏切り、そして人間の業

2008年、イタリアで公開されたマッテオ・ガローネ監督の映画『ゴモラ (Gomorra)』は、イタリア・ナポリを牛耳る犯罪組織カモッラの暗部を描き、世界中に衝撃を与えた作品です。ロベルト・サヴィアーノのノンフィクション小説『死都ゴモラ』を原作とし、カモッラの非情な実態をリアルに、そして容赦なく表現しています。サヴィアーノ自身、この本の出版後、マフィアから命を狙われ、警察の保護下に置かれるという現実を背景に、映画はより一層の重みと緊迫感を帯びています。

映画は、カモッラの様々な活動を描いた5つのエピソードで構成されています。それぞれが独立した物語でありながら、組織の構造、暴力の連鎖、そして人々の葛藤を鮮やかに浮き彫りにしています。

1. 少年トトの物語： 貧しい家庭で育った少年トトは、やむを得ずカモッラに加わります。組織の冷酷な現実を目の当たりにし、親しくしていた女性の殺害を強要される場面は、映画の残酷さを象徴するシーンの一つです。トトの選択は、組織のシステムに飲み込まれる若者の悲劇を際立たせています。

2. ドン・チーロとマリアの物語： 組織の資金を管理するドン・チーロは、組織に裏切られた女性の悲劇に巻き込まれます。彼の苦悩は、組織と個人の間の断絶、そして抗争の理不尽さを浮き彫りにしています。組織からの裏切りと絶望、そして残された道なき道をさまよう姿は、カモッラの恐ろしさを際立たせます。

3. フランコとロベルトの物語： 廃棄物処理会社で働くロベルトは、高収入に惹かれながらも、違法行為と劣悪な労働環境に嫌気がさします。理想と現実のギャップに苦しみ、組織との決別を決意しますが、その道のりは容易ではありません。

4. パスクワーレの物語： 熟練の仕立て職人パスクワーレは、組織と繋がった工場で働きながらも、才能が正当に評価されないことに不満を感じています。彼は中国人の業者と密かに仕事をする裏切り行為に出ますが、それが裏目に出ます。彼の物語は、組織の抑圧下で生きる個人の葛藤と、組織に逆らうことの危険性を示しています。

5. マルコとチーロの物語： 映画『スカーフェイス』に憧れる2人組のマルコとチーロは、組織の武器を盗んで強盗を繰り返します。彼らの軽率な行為は、組織の怒りを買い、命を落とす結果となります。このエピソードは、組織の鉄の規律と、組織の秩序を乱すものの厳罰を描き出しています。

『ゴモラ』は、単なるマフィア映画ではありません。イタリア社会の闇、貧困、そして絶望を描いた社会派ドラマです。リアリティあふれる描写、重厚なストーリー、そして優れた演技は、観客に強い衝撃と深い余韻を与えます。カンヌ国際映画祭審査員特別グランプリ、ヨーロッパ映画賞5部門受賞など、世界的に高い評価を獲得しているのも納得です。この映画は、組織犯罪の恐ろしさと、それに抗うことの困難さを改めて私たちに突きつけます。さらに、映画公開後には、出演俳優の一人が指名手配中のカモッラの一員であることが発覚し、逮捕されるという事件も発生し、映画が描くリアリティの凄さを改めて感じさせられました。日本でも2011年に劇場公開され、高い評価を得ています。まさに、現代社会における暴力と人間の業を描いた、忘れがたい傑作と言えるでしょう。

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