ゴーイン・ウェスト

『ゴーイン・ウェスト』（Goin' West）は、ジャズ界を代表するギタリストの一人、グラント・グリーンが手掛けたスタジオ録音作品です。このアルバムは1962年にレコーディングが行われましたが、当時のジャズ界では珍しいカントリー＆ウェスタンの楽曲をテーマに選んだことからか、正式なリリースは7年後の1969年まで見送られました。

作品の内容と背景

グラント・グリーンは1962年という年に、特定の音楽ジャンルやテーマに焦点を当てた一連のセッションを行っており、本作もその中の一つとして位置づけられています。伝統的なカントリーソングや西部開拓時代のメロディーを、ジャズの語法で再構築するという、彼のディスコグラフィーの中でも異彩を放つ作品と言えるでしょう。アコースティックギターを用いた温かみのある音色と、ブルースフィーリング溢れるフレージングが特徴的なグリーンのスタイルを通して、これらの馴染み深いメロディーが新たな魅力を帯びていきます。

収録曲

アルバムには、カントリー＆ウェスタンのスタンダードとして知られる楽曲が5曲収録されています。トラディショナルから、当時ポピュラーだった楽曲まで、幅広い選曲となっています。

- 「オン・トップ・オブ・オールド・スモーキー」 - "On Top of Old Smokey" (Traditional) - 7:04
- 「愛さずにはいられない」 - "I Can't Stop Loving You" (Don Gibson) - 3:26
- 「ワゴン・ホイールズ」 - "Wagon Wheels" (Peter DeRose, Billy Hill) - 6:22
- 「レッド・リヴァー・ヴァレー」 - "Red River Valley" (Traditional) - 6:05
- 「タンブリング・タンブルウィーズ」 - "Tumbling Tumbleweeds" (Bob Nolan) - 11:05

特に、「タンブリング・タンブルウィーズ」は11分を超える長尺テイクとなっており、各ミュージシャンのインプロヴィゼーションが存分に展開されています。

参加ミュージシャン

本作の録音には、当時のジャズシーンの最前線で活躍していた錚々たるメンバーが参加しています。グラント・グリーンのギターに加え、ピアノにはハービー・ハンコック、ベースにはレジー・ワークマン、そしてドラムスにはビリー・ヒギンスが名を連ねています。ハービー・ハンコックはこの後、マイルス・デイヴィスの伝説的なクインテットに参加し、ジャズの歴史に名を刻むこととなります。また、ビリー・ヒギンスはオーネット・コールマンの初期アトランティック盤に、レジー・ワークマンはジョン・コルトレーンのグループに参加するなど、それぞれがモダンジャズの重要な局面を担っていたプレイヤーたちでした。彼らのアンサンブルが、このユニークなテーマの作品を支えています。

批評家の評価

このアルバムは、その珍しいテーマと録音・発表年の隔たりから、後年に改めて評価されることとなりました。批評家のステファン・トーマス・アールワインは、音楽データベースサイト「オールミュージック」で本作に5点満点中3点の評価を与えています。彼はレビューの中で、「「オン・トップ・オブ・オールド・スモーキー」や「タンブリング・タンブルウィーズ」といった、にわかには信じがたいような選曲が含まれている」点に言及しています。

また、批評家のコリン・フレミングも2004年に本作をレビューし、アールワインと同じく5点満点中3点と評価しました。フレミングは、参加メンバーが「オーネット・コールマンのアトランティック初期セッションに参加したビリー・ヒギンス、ジョン・コルトレーンと共に活動していたレジー・ワークマン、ほどなくしてマイルス・デイヴィスの最も冒険的で全盛期と言えるバンドに加入するハービー・ハンコック」といった当時の精鋭であることに触れつつも、演奏内容については「必ずしも絶好調とは言えない」というやや手厳しいコメントを寄せています。しかし、こうした評価も、本作がジャズミュージシャンによる異ジャンルへのアプローチとして興味深い試みであったことを示唆していると言えるでしょう。

『ゴーイン・ウェスト』は、グラント・グリーンのキャリアの中でも特にユニークな位置を占める作品であり、カントリー＆ウェスタンという異文化をジャズの視点から解釈した興味深い記録となっています。

外部リンク
Discogs - ゴーイン・ウェスト
(発売一覧の情報はDiscogsへのリンクとして表現)

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