ゴードン・ノースコット事件

ゴードン・ノースコット事件：闇に消えた少年たち

ゴードン・ノースコット事件は、1920年代後半にアメリカ合衆国カリフォルニア州で発生した、凄惨な連続少年誘拐殺人事件です。「ワインヴィル養鶏場連続殺人事件」とも呼ばれ、アメリカ犯罪史上、特筆すべき事件として深く刻まれています。有罪が確定したのは3件の殺人ですが、ゴードン・ノースコット本人は、ウォルター・コリンズを含む20人もの少年を殺害したと供述しています。

事件の概要

1926年、ゴードン・スチュアート・ノースコットは、カリフォルニア州リヴァーサイド郡ワインヴィル（現・マイラ・ローマ）で養鶏場を経営していました。彼はカナダから14歳の甥、サンフォード・クラークを引き取り、養鶏場で働かせていました。

1928年2月、ラ・プエンテの溝で、身元不明のメキシコ人少年の首なし遺体が発見されます。さらに、近所に住む兄弟がゴードンと一緒にいるのを目撃された後、行方不明となりました。同年9月、ロサンゼルス市警察が養鶏場を捜索したところ、メキシコ人少年の頭部が発見されました。クラークへの尋問の結果、ゴードンが複数の少年を誘拐し、性的虐待を加えた上で殺害、養鶏場周辺に埋めていたことが判明しました。

クラークの証言によると、ゴードンは母親のサラ・ルイーズの助けを借り、少年たちを養鶏場に監禁。わいせつな行為を繰り返した後、殺害していました。遺体は証拠隠滅のため生石灰で処分されたとされ、警察が捜索したものの、発見されたのは骨片のみでした。

事件発覚当時21歳だったゴードンは、警察の捜索前にカナダへ逃亡しましたが、ブリティッシュコロンビア州で拘束され、カリフォルニアへ送還。3人の殺害容疑で起訴されました。

ゴードンは、少年を誘拐して養鶏場に監禁し、性的欲求を満たすだけでなく、金銭目的で同様の性的嗜好を持つ顧客に少年を「貸し出し」ていたことも判明しています。用済みになった少年は撲殺され、生石灰で溶かされた後、養鶏場周辺の砂漠に遺棄されていました。この作業を手伝わされていたクラークの証言から、遺棄現場からは大量の人骨が発見されました。

クラークは、事件の重要な証言を行ったことから、司法取引の見返りとして刑事裁判では起訴されませんでした。その後、氏名の変更命令が出され、少年院送致を経てカナダへ強制送還。事件関係者の中では最も長生きし、家庭を築き、1991年に亡くなりました。

事件の波紋と刑事裁判

裁判でゴードンは、ウォルター・コリンズらを殺害したことを認めました。母親のサラも5人の殺害に関与したことを認め、メキシコ人少年殺害の罪で終身刑を宣告されました。検察は、サラが女性であったため死刑を免れたと述べています。サラは12年後に仮釈放されています。

一方ゴードンは、弁護士を雇わず裁判に臨みましたが、供述は支離滅裂で矛盾に満ちており、事件の全貌は解明されませんでした。法廷でゴードンは精神異常者ではないと主張しましたが、認められず、責任能力ありと判断され死刑判決が下されました。サン・クウェンティン刑務所の死刑囚監房に収監されたゴードンは、自らの罪の大きさを認識し精神の均衡を失い始めます。死に至る病に冒されたと思い込み、クリントン・ダフィ副所長に一連の大量殺人の詳細を告白しました。ゴードンは1930年10月2日、サン・クウェンティン刑務所で死刑を執行されました。

クリスティン・コリンズに降りかかった災難

1928年3月10日、ウォルター・コリンズ（当時9歳）がロサンゼルスの自宅から行方不明となり、全米の注目を集めました。5ヶ月後、ロサンゼルス市警察はイリノイ州でウォルターを発見し、母親のクリスティンに引き渡します。しかし、クリスティンは、引き渡された少年がウォルターではないと主張しました。身長が低くなっている、歯の治療記録が異なる、教師の証言が一致しない、などが理由でした。

警察はクリスティンの訴えを無視し、「警察が認定した事実を認めない異常者」として精神病院に強制入院させました。しかし、後にゴードンの自白によりウォルターが殺害されていたことが明らかになり、クリスティンは退院しました。もし警察が当初から真剣に捜査していれば、ウォルターを救出できた可能性もあったのです。また、警察が連れてきた少年が何者なのかという疑問も残りました。

この事件は、警察の権力乱用を浮き彫りにしました。警察に逆らう者は精神病院に送り込まれるという、当時の腐敗した体質が暴露されたのです。ウォルターとされた少年は、アーサー・J・ハチンズ・ジュニアという少年でした。彼は、継母との関係が悪く遠くに行きたかった、L.A.に行けば映画スターに会えると思った、という理由でウォルターであると偽ったと語っています。ウォルター捜索の担当警部だったJ・J・ジョーンズは、明らかに違うことに気づくはずでしたが、自身の功名心のためにアーサーの幼稚な芝居に加担し、真相究明を求めるクリスティンを精神病扱いしました。クリスティンはジョーンズに対して民事訴訟を起こし勝訴しましたが、発見された骨片がウォルターのものかどうか判明しなかったため、息子の生存を終生信じていたといいます。ジョーンズとデービス市警本部長は後に免職・罷免され、再選を目指していた時の市長ジョージ・クライアーも立候補を取りやめました。

事件の影響

ゴードン・ノースコット事件は、アメリカ社会に大きな衝撃を与え、警察の捜査体制や精神医療のあり方に疑問を投げかけました。また、犯罪被害者とその家族が受ける二次的被害についても、社会的な関心を高めるきっかけとなりました。

この事件をモチーフにした映画『チェンジリング』は、クリスティン・コリンズの苦悩を描き、多くの観客に感動を与えました。

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