ゴーン・トロッポ

ジョージ・ハリスン『ゴーン・トロッポ』：南国サウンドに隠された倦怠と再評価

『ゴーン・トロッポ』は、1982年10月27日にリリースされたジョージ・ハリスンのアルバムです。前作とは対照的に、明るくポップなサウンドが特徴ですが、その背景には音楽業界への倦厭という複雑な事情がありました。

制作の背景

ビートルズ時代からジョージを支えてきたフィル・マクドナルドと、前作にも参加したレイ・クーパーが共同プロデューサーを務めました。全体的にマリンバを効果的に使用し、南国的な雰囲気を演出しています。当時台頭してきたパンク・ロックやヒップホップを批判していたジョージですが、このアルバムではドラム・マシンやシンセサイザーを導入し、時代へのわずかな迎合も見られます。ジャケット・デザインは、ボンゾ・ドッグ・ドゥー・ダー・バンドのラリー・スミスが担当し、アルバムの雰囲気を視覚的に表現しています。

プロモーションの欠如と商業的失敗

前作を巡るトラブルから音楽業界に嫌気がさしていたジョージは、このアルバムのプロモーションをほとんど行いませんでした。レコード会社も同様に消極的だったため、アルバムは発売後、ほとんど注目されませんでした。結果として、アメリカのビルボードチャートでは最高108位、キャッシュボックス誌では67位と、解散後最も低いチャート成績となりました。イギリスや日本に至っては、チャートインすらできませんでした。このアルバムの不振後、ジョージは音楽活動を半ば引退し、映画制作や庭仕事に没頭するようになります。

共同プロデューサーのマクドナルドは当時、「ジョージの音楽を理解できるのはファンだけ」とコメントしています。1991年にCD化されましたが、その後長らく廃盤となり、2004年にデジタル・リマスタリングされ再発されました。再発時には、ボーナス・トラックとして「ミスティカル・ワン」のデモテープが追加収録されています。

収録曲について

アルバム自体が注目されなかったため、ジョージ自身が収録曲について語ることはほとんどありませんでした。

アイ・リアリー・ラヴ・ユー：1961年のドゥーワップ調のカバー曲。イントロの足拍子は、リンゴ・スターの提案によるものです。
ミスティカル・ワン：親友エリック・クラプトンに捧げた曲。
オ・ラ・イ・ナ・エ（ドリーム・アウェイ）：映画『バンデットQ』の主題歌のリミックス・バージョンで、日本限定でシングルカットされました。
サークルズ：ビートルズ時代から存在していた曲で、『レット・イット・ビー』のセッションでも演奏されていました。

まとめ

『ゴーン・トロッポ』は、ジョージ・ハリスンの作品の中でも特異な位置を占めるアルバムです。南国風のサウンドとは裏腹に、当時のジョージの音楽業界への倦厭や葛藤が反映されています。商業的には成功しませんでしたが、その音楽性は再評価の兆しを見せており、ジョージ・ハリスンの音楽性を探求する上で欠かせない作品と言えるでしょう。

収録曲

1. 愛に気づいて - "Wake Up My Love"
2. ザッツ・ザ・ウェイ・イット・ゴーズ - "That's The Way It Goes"
3. アイ・リアリー・ラヴ・ユー - "I Really Love You"
4. グリース - "Greece"
5. ゴーン・トロッポ - "Gone Troppo"
6. ミスティカル・ワン - "Mystical One"
7. アンノウン・ディライト - "Unknown Delight"
8. ベイビー・ドント・ラン・アウェイ - "Baby Don't Run Away"
9. オ・ラ・イ・ナ・エ (ドリーム・アウェイ) - "Dream Away"
10. サークルズ - "Circles"
11. ミスティカル・ワン [デモ] - "Mystical One" (アディショナル・トラック)

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