サイモン&ガーファンクル・ベスト (全訳)

サイモン&ガーファンクル・ベスト (全訳)

『サイモン&ガーファンクル・ベスト (全訳)』は、1972年にNHKステージ101という名義でリリースされた音楽アルバムです。この作品の歌唱を担当したのは、当時NHK総合テレビで放送されていた人気の音楽番組『ステージ101』のレギュラー・グループとして活躍していたヤング101でした。

このアルバムは、ヤング101が発表したオリジナル・アルバムとしては通算7作目にあたり、特にCBSソニーからリリースされた作品群の中では3枚目という位置づけになります。先にCBSソニーからリリースされたアルバムとしては、『サイモンとガーファンクルを歌う』（1971年）が存在します。この先行作品と同様に、本作もサイモン&ガーファンクルのオリジナル楽曲や、彼らが演奏していた楽曲をカバーしたものです。

本作が持つ最大の特徴であり、アルバム名の「全訳」が示す通り、収録されている全ての楽曲が日本語の歌詞で歌われています。これは、当時の日本の音楽シーンにおける洋楽の受容や、番組『ステージ101』のコンセプトである「日本の若者による新しい音楽表現」を色濃く反映した試みと言えるでしょう。

収録曲については、前作『サイモンとガーファンクルを歌う』と多くの楽曲が共通しています。全12曲のうち、10曲が前作にも収録されていた楽曲です。しかし、これらの共通する楽曲は、前作からの流用ではなく、全て新たにレコーディングされた再録音版です。再録にあたっては、編曲が一新され、歌唱を担当するヤング101のメンバー構成も変更されました。この再録音によって、同じ楽曲でも前作とは異なる雰囲気や表現が生まれ、ヤング101の多様な音楽性とパフォーマンス能力が示されています。

ヤング101は、『ステージ101』という番組の看板であり、高度な歌唱力、特に美しいハーモニーを特徴としていました。彼らが当時世界的に絶大な人気を誇っていたサイモン&ガーファンクルの叙情的で美しい楽曲を、日本語の歌詞で歌い上げることは、当時の視聴者にとって新鮮な驚きであり、洋楽をより身近に感じさせる効果があったと考えられます。再録音版としてリリースされたことで、彼らの楽曲への取り組みの進化や、番組の音楽的ディレクションの変化も伺い知ることができます。

このアルバムは、長らくアナログレコードやCDで聴かれてきましたが、近年再び注目を集める機会が増えています。2012年には、ヤング101名義の功績をまとめた5枚組のCDボックスセット『ギフト・ボックス』が発売されました。このセットのディスク1には、『サイモンとガーファンクルを歌う』の全曲と共に、本作『サイモン&ガーファンクル・ベスト (全訳)』の全曲も収録され、まとめて聴くことが可能となりました。さらに、音楽鑑賞の形態が多様化する現代において、2024年6月にはヤング101がCBSソニーから発表した全6作のアルバムがサブスクリプションサービスでの配信が開始され、本作も含まれています。これにより、より多くの音楽ファンが、日本のポピュラー音楽史においてユニークな位置を占めるこのアルバムに、手軽にアクセスできるようになりました。当時の音楽シーンの一端を知る上でも、『サイモン&ガーファンクル・ベスト (全訳)』は貴重な音源と言えるでしょう。

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