サケ・マス論

サケ・マス論とは

サケ・マス論は、日本の考古学者である山内清男が1940年代に提唱した、縄文時代の生業に関する理論です。山内は、縄文時代の東日本におけるサケの重要性に着目し、独自の理論を展開しました。

理論の概要

山内は1947年頃から、サケ類が東日本の縄文文化において重要な食料資源であることを指摘していました。1964年には、この理論を文章化し、以下の点を主張しました。

東日本、特に北日本の河川にはサケが遡上し、アイヌの人々が食料として利用していた。
『延喜式』には、信濃国から鮭が貢納されていた記録がある。
北アメリカ太平洋沿岸のインディアンは、遡上するサケを保存食料としていた。
アジア東岸の原住民も同様にサケを利用しており、東北地方はその南端にあたる。
関東地方の縄文文化は、カリフォルニアのインディアンと同様にドングリなどの堅果類を食糧の中心としていた。
植生の違いからドングリに多くを期待できない北日本の縄文文化は、北西海岸インディアンの生活に類似した文化を持つと考えた。
東日本の縄文時代の遺跡数が西日本よりも多いのは、東西日本の食料資源の優劣によるものである。

山内は、サケが東日本の縄文文化において重要な役割を果たしていたと考え、その根拠として、当時の人々の生活様式や食料事情などを詳細に分析しました。

補強と反論

サケ・マス論は、縄文文化の東西の差異を説明する上で重要な役割を果たしましたが、実際には縄文時代の貝塚からサケ類の骨が出土することは極めてまれでした。この点について、山内自身はサケ類の骨を粉末にして保存した可能性を指摘しています。

また、他の研究者からは、以下の説が挙げられています。

サケの骨は軟骨なので残りにくい。
再生を願って骨などを海に戻した。
保存食料として加工したため、変質して弱くなった。
保存食料として1回あたりの消費量が少ないため、検出される機会が少なくなった。
頭から尾まですべて食べられた。
* 貝塚とは離れた場所で保存処理がされるので川筋に沿ったキャンプ地に骨が残される。

これらの説に対しては多くの反論が寄せられましたが、川を満たすほどの魚群の遡上が見過ごされるはずはなく、サケは当時の人々にとって越冬食糧として重要な意味を持っていたと考えられています。

近年の研究成果

近年の調査によって、北海道千歳市の美々貝塚、北海道上磯郡知内町湯の里I遺跡、青森県八戸市の赤御堂貝塚、岩手県西磐井郡花泉町の貝鳥貝塚など、北海道・東北地方の遺跡でサケ類の骨が次々と発見されています。これらの発見は、縄文時代の人々が動物資源のひとつとしてサケ類を利用してきたことを示しており、山内の説をある程度裏付けるものと考えられています。

これらの研究成果から、縄文時代の東日本では食糧の多くをサケ類に依存していたという山内の説は、ある程度正しいものと評価できます。

まとめ

サケ・マス論は、縄文時代の生業に関する重要な理論であり、東日本の縄文文化におけるサケの重要性を示唆しています。今後の研究によって、サケ・マス論がさらに発展し、縄文時代の食文化や生活様式についてより深く理解できるようになることが期待されます。

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