サツキ (オランウータン)

「絵を描くオランウータン」として親しまれたボルネオオランウータンの「サツキ」は、大阪市天王寺動物園で推定42年の生涯を送りました。推定1970年にボルネオ島周辺で生まれ、2012年9月25日に亡くなるまで、彼女の人生は人間社会に翻弄されながらも、類稀な才能を発揮したものでした。

サツキの物語は、不法な密輸から始まります。幼くして母親と引き離され、日本へ連れてこられた彼女は、規制を無視して国内に持ち込まれました。違法な環境で飼育されていたところを保護され、1972年6月1日に天王寺動物園に引き取られました。当時の動物園では、動物によるショーが一般的に行われていた時代でした。

動物園でのサツキは、賢く温厚な性格で知られました。飼育員の真似をして雑巾を絞るなど知性の高さを見せた一方、見知らぬ人間などには唾を吐いて威嚇することもありました。特に注射をする獣医師の顔はよく覚えていたようです。

子育てはサツキにとって大きな困難でした。幼少期の経験から子育ての方法を知らなかったためか、4度の出産で生まれた全ての子を失いました。事故、人工哺育、病死、そして死産と、悲劇が繰り返されました。母性的な行動は見せましたが、子を育てることは叶いませんでした。

サツキを特別な存在にしたのは、「絵を描く」という創作活動です。2006年冬、飼育員が絵を描くのを見て興味を持ち、クレヨンを与えられたことで始まりました。彼女は器用にクレヨンを使い、力強い線や色分けで絵を描きました。気に入らない絵は破り、満足するまで描き直す集中力を見せました。この活動は死の直前まで続けられ、その芸術性は専門家からも高く評価されました。

彼女の芸術活動は公にも認められ、2008年には大阪市立美術館の公募展に、絵画とオブジェが出品されました。

推定42歳となったサツキは、2012年9月25日に静かに亡くなりました。老衰と考えられます。最期の数日前には、親しかったオスのミミが別の動物園へ移動していました。

サツキの生涯は、動物園で暮らす動物たちの困難な現実も示しました。来園者による無許可の餌やりは、息子のサブの虫歯による肺炎での死や、サツキ自身の虫歯など、健康問題を引き起こしました。無責任な餌やりは動物の健康を損なう危険性があるため、動物園は施設の改修などで対策を講じました。

密輸から始まり、アートの才能を開花させ、多くの苦難を乗り越えたサツキ。彼女の生涯は、動物福祉や人間と野生動物の関係について、私たちに多くのことを教えてくれます。

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