サフィータ

サフィータ：地中海の要塞都市

シリア北西部タルトゥース県に位置するサフィータは、地中海岸からやや内陸に入った歴史都市です。人口約3万3千人のこの都市は、世界遺産クラック・デ・シュヴァリエからも比較的近い場所にあり、古くから戦略的に重要な拠点として機能してきました。三つの丘とその間の谷間に広がる独特の地形も、サフィータの特色となっています。

フェニキア時代から続く歴史

サフィータの歴史は古く、フェニキア人がシリア・レバノン沿岸で勢力を伸ばしていた時代から、この地には集落が存在していました。考古学調査では、フェニキア人やカナン人の居住跡などが発見されており、サフィータが古代から人々の生活を支える場所であったことがわかります。

その後、1102年にトゥールーズ伯レーモン4世がトリポリを攻撃、陥落させ、サフィータを含む広大な土地がトリポリ伯領となりました。十字軍時代には、この地は重要な軍事拠点として機能し、様々な勢力の支配下に置かれます。

シャステル・ブラン：テンプル騎士団の城塞

サフィータのシンボルと言えるのが、シャステル・ブラン（Chastel Blanc、アラビア語ではブルジ・サフィータ）です。三つの丘の真ん中に位置するこの城塞は、テンプル騎士団によって築かれ、あるいは既存の砦を改修して造られたと考えられています。

高さ28m、幅18m、長さ31mの堂々たる塔は、城塞の天守にあたります。西側の壁には巨大な鐘があり、遠く5km先までその音が届いたと伝えられています。塔の内部は、堅牢な3m厚の壁で守られており、1階には聖ミカエル礼拝堂があります。現在でも、サフィータの正教会信徒が聖ミカエルへの祈りを捧げる場所として利用されています。

3階は住居として使用されており、多数の小さな傾斜した窓は、弓矢による防衛を目的としていたと考えられます。城の地下には貯水池が造られており、長期にわたる攻囲戦に備えた施設であったことがわかります。シャステル・ブランからは、地中海、レバノン山脈、トリポリの町、さらには他の十字軍の城塞群を見渡すことができ、まさに戦略的な要衝であったと言えるでしょう。

シャステル・ブランは、1170年と1202年の地震で被害を受けましたが、改修が重ねられ、現在の姿となりました。城塞の守備のために、この塔以外にも砦が存在していましたが、現在では入り口の門の一部が残るのみとなっています。フランス統治時代には再建の試みもあったものの、周辺住民への負担が大きかったため、完全な修復には至りませんでした。

サフィータの未来

長い歴史と、十字軍の時代を象徴するシャステル・ブランを擁するサフィータは、シリアの歴史と文化を語る上で重要な都市です。その歴史的遺産を守り、未来へと繋いでいくことが、世界全体の課題と言えるでしょう。 サフィータの未来は、シリアの未来と深く繋がっています。

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