タルトゥース

シリアの港湾都市タルトゥース：歴史と現代が織りなす地中海の宝石

タルトゥースは、シリア・アラブ共和国西部に位置する地中海の港湾都市です。ラタキアに次ぐシリア第二の港湾都市であり、タルトゥース県の県都として、重要な役割を担っています。人口は約9万3千人（2007年推計）で、ロシア海軍基地の所在も知られています。

多彩な名称と地理的特徴

古くはラテン語でアンタラドゥスやアンタルトゥスと呼ばれ、十字軍時代にはトルトーザとして知られていました。現在のアラビア語名はطرطوس（タルートゥース）です。首都ダマスカスから北西約220km、主要港湾都市ラタキアから南へ約90km、車で1時間以内の距離に位置し、レバノン国境にも近接しています。

地中海に面し、背後にはJabal an-Nusayriyah山脈が連なります。沖合3kmにはシリア唯一の有人島、アルワード島が浮かびます。平坦な土地にあり、東側は石灰岩や玄武岩の丘に囲まれています。地中海性気候に属し、温暖で湿潤な気候が特徴です。夏の湿度も高く、東部の丘陵地帯とは異なる環境となっています。

悠久の歴史：フェニキアから現代まで

タルトゥースの歴史は古く、紀元前2千年紀、沖合のアルワード島にフェニキア人の植民都市アラドゥスが建設されたことに始まります。本土側には、アラドゥスの対岸という意味でアンタラドゥスと呼ばれた集落が形成されました。その後、アムル人が建設した古代都市アムリト（ギリシャ時代にはマラトゥス）が経済的に重要な役割を果たしました。ローマ帝国時代には、聖母マリアへの信仰が盛んな都市として発展しました。

12世紀末、十字軍によって征服され、トリポリ伯国の一部としてトルトーザと呼ばれました。1123年には聖母教会が建立され、現在も博物館として利用されています。1152年にはテンプル騎士団が入り、軍事拠点として重要な役割を果たしました。サラーフッディーンによる陥落後も、城塞は抵抗を続け、13世紀末まで西洋勢力の拠点として存続しました。

近代においては、シリア海軍の主要基地の一つであり、ソ連時代からロシア海軍の海外拠点となっています。2011年からのシリア内戦では、アサド政権支持の立場を明確にしています。

経済と社会

地中海に面し、レバノン国境に近い地理的条件から、タルトゥースはシリアの主要な交易拠点です。タルトゥース港はイラク復興のための物資輸送でも重要な役割を果たしており、大規模な拡張工事が行われています。ロシア海軍基地の存在も経済に影響を与えています。漁業や観光業も重要な産業であり、海岸線沿いのリゾート地は人気を集めています。近年は港湾地区の再開発も進められています。

住民は主にアラブ人ですが、ギリシャ系住民やイラク人難民も居住しています。

交通と観光

タルトゥースとその周辺には道路網が整備され、鉄道も主要都市とを結んでいます。アルワード島へはフェリーが運航しています。最寄りの国際空港はアル・バシル空港です。

観光資源としては、十字軍時代の城塞跡、聖母教会（博物館）、マルガット城、アルワード島、古代遺跡などがあります。旧市街は城塞跡の上に築かれ、歴史と現代の建物が混在する独特の景観を呈しています。

タルトゥースは、古代から現代まで、地中海の要衝として重要な役割を果たしてきた都市です。歴史と現代が融合する魅力的な都市として、今後ますます注目を集めるでしょう。

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