サミュエル・ファン・ホーホストラーテン

サミュエル・ファン・ホーホストラーテン：多才なオランダ黄金時代の巨匠

サミュエル・ファン・ホーホストラーテン(1627年-1678年)は、オランダ黄金時代を代表する画家の一人です。オランダのドルトレヒトに生まれ、同地で生涯を終えました。彼の芸術的才能は早くから開花し、父ディルクからの指導の後、巨匠レンブラントに師事しました。レンブラント門下での研鑽は、彼の画業に大きな影響を与えたことは間違いありません。

華麗なる画業：多様な画風と卓越した技術

ファン・ホーホストラーテンは、肖像画を得意とした画家として知られています。彼の作品の特徴は、多様な画風を取り入れ、自身の表現に昇華させている点にあります。初期の作品には、師であるレンブラントからの影響が色濃く見て取れますが、ウィーンのリヒテンシュタイン・コレクションが所蔵する1645年制作の肖像画はその好例と言えるでしょう。一方で、彼は建築物を写実的に描く技術にも長けていました。1652年に制作されたウィーンのホーフブルク宮殿の絵画は、その卓越した描写力を示すものです。

しかし、彼の画風は、師や同時代の画家たちからの影響にとどまりませんでした。ピーテル・デ・ホーホの作品を模倣したとされる『手紙を読む女性』(マウリッツハイス美術館所蔵)など、多様な作風への挑戦が見て取れます。こうした模倣と試行錯誤を経て、彼は独自の画風を確立しました。ウィーン美術史美術館が所蔵する『窓から外を眺める老人』は、彼の独自の画風が最もよく表れている代表作の一つとして高く評価されています。この作品では、窓越しに外を眺める老人の姿が、静謐で深みのある表現で描かれています。晩年の作品としては、1670年に描かれた『マセイス・ファン・デル・ブルックの肖像』などが知られています。

「のぞきからくり箱」：立体的な視覚体験

ファン・ホーホストラーテンは、画家としての活動にとどまらず、「のぞきからくり箱」(peepshow)の制作にも才能を発揮しました。箱の小さな穴から覗き込むと、オランダの民家のインテリアが立体的に浮かび上がる、巧みな仕掛けの作品を残しています。ロンドン・ナショナル・ギャラリーが所蔵する作品は、彼の技術の高さを物語るものです。

文筆家としての顔：芸術理論の探求

彼は画家としてだけではなく、文筆家としても活躍しました。造幣局長としての職務の傍ら執筆活動を行い、1678年に発表された『絵画芸術の高等画派入門 (Inleyding tot de Hooge Schoole der Schilderkonst)』は、17世紀オランダにおける芸術理論の分野で重要な位置を占める著作です。絵画の表現力や錯視効果、画家の倫理、絵画と哲学との関係など、多岐にわたるテーマを網羅し、当時のオランダ絵画界の動向や議論を反映しています。カレル・ヴァン・マンデルの『画家列伝』を踏まえた、いわば続編と言えるこの著作は、彼の芸術に対する深い洞察を示しています。

多彩な才能と多大な影響

さらに、彼はソネットや悲劇なども創作しており、多方面にわたる才能を持っていました。エッチング作家としても活躍し、50歳の自画像など、数々の作品を残しています。レンブラントの言葉として現在まで伝わっているものの中には、彼の著作に由来するものも含まれています。彼の弟子には、実弟のヤン・ファン・ホーホストラーテン、アールト・デ・ヘルデル、コルネリス・ファン・デル・ミューレン、ゴドフリート・スカルッケンなどがおり、彼らを通じて彼の芸術思想は後の世代に受け継がれていきました。弟子の一人であるアルノルト・ホウブラーケンが著した『大劇場』は、ファン・ホーホストラーテンの生涯と作品を詳細に伝える貴重な資料となっています。

サミュエル・ファン・ホーホストラーテンは、画家、造幣局長、文筆家として、多様な才能を発揮したオランダ黄金時代の稀有な存在でした。彼の作品と著作は、現代においても高い評価を受けており、17世紀オランダ芸術史における重要な位置を占めています。

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