サラマンダー (妖精)

サラマンダー：炎をまとう伝説の生物

サラマンダー（英：salamander、羅：salamandra）は、中世錬金術における火の精霊、または西洋博物学における火に耐える伝説的な動物として知られています。燃え盛る炎や溶岩の中に棲む、小さなトカゲやドラゴンのような姿で描かれます。

サラマンダーを巡る伝承

耐火性と誤解

イモリ類が火の中で生きられると考えられていたのは、体温の低さや体液の多さから、火を寄せ付けない、あるいは消し去ると信じられていたためです。薪に潜んでいたイモリが火にくべられ、逃げ出す様子が、この迷信を広めた一因とされています。

古代ヨーロッパの学者たちもサラマンダーの耐火性を記述しましたが、実験で否定されたにもかかわらず、この迷信は中世を通じて根強く残りました。

火の精霊としてのサラマンダー

16世紀には、パラケルススが四大精霊の火の精霊をサラマンダーとしました。それまで人間型の火精という観念もありましたが、以降はトカゲやサンショウウオの姿が一般的になりました。

毒性と薬効

サラマンダーは恐ろしい毒を持つとされ、触れたものを毒に変える、または命を奪うと考えられていました。しかし、その毒性から強力な薬効も期待され、強壮剤や催淫剤、脱毛剤になるとも信じられていました。

象徴としてのサラマンダー

サラマンダーは、中世では信仰心や貞節を、近世には正義の象徴として捉えられました。フランス王フランソワ1世は、サラマンダーを紋章とし、「善なる火を燃え上がらせ悪なる火を消し去る」正義を象徴しました。

西洋の伝承

伝説的なサラマンダーは、サンショウウオに超自然的な能力や属性が付与された存在です。キリスト教の寓意譚では、象徴的な意味合いで扱われました。

古代ギリシア・ローマ

アリストテレスはサラマンダーの耐火性について記述し、テオプラストスはサラマンダーを降雨の前兆としました。プリニウスはサラマンダーを斑点のあるトカゲの形とし、毒性や薬効についても言及しました。

ユダヤ教・初期キリスト教

ユダヤ教のタルムードでは、サラマンダーは火から生じる生物とされ、その血を塗ると耐火性が得られるとされました。聖アウグスティヌスは、サラマンダーの存在を、魂の不滅の証としました。

ヘルメス主義

ホラポッロの『ヒエログリフィカ』には、サラマンダーが炉に入って火を消すという記述があり、エジプトにもサラマンダーの伝説が伝わっていたことが伺えます。

中世盛期

中世の動物寓意譚集『ベスティアリ』では、サラマンダーは様々な姿で描かれ、耐火性に加え、最強の猛毒を持つ動物として描写されました。アルベルトゥス・マグヌスは、アスベスト布がサラマンダーの羽から取れるとしました。

愛や非愛の象徴

キリスト教美術では、サラマンダーは熱情を抑えた信仰心の象徴とされます。しかし、文学作品では、愛欲の比喩として用いられることもありました。

近世

レオナルド・ダ・ヴィンチは、サラマンダーについて特異な生態を記述しました。近世ヨーロッパでは、サラマンダーは耐火性を持つ生物として認識され、サンショウウオが薪の中から現れる現象が、その根拠とされました。

パラケルススは、サラマンダーを火の元素の精霊と提唱し、オカルトに大きな影響を与えました。

紋章学

紋章学では、サラマンダーはトカゲやドラゴンとして描かれ、フランス王フランソワ1世の紋章にも用いられました。サラマンダーは、正義の象徴として表現されました。

民話

フランスの民間伝承では、サラマンダーの吐息は危険視され、家畜を殺すと恐れられました。ドイツの民話では、魔法使いに使役されたサラマンダーが、火事の警告をする存在として描かれました。

アスベスト布

中国の火浣布は、火で洗うと清潔になる不燃性の布で、アスベスト布のことだと考えられています。アラブやペルシアでも、サラマンダーが不燃布の材料として語られました。

サラマンダーは、その伝説的な性質と象徴性を通じて、様々な文化や時代に影響を与え続けています。

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