サラン峠

サラン峠：アフガニスタンの交通の要衝

サラン峠は、アフガニスタンのヒンドゥークシュ山脈に位置する峠で、首都カーブルと北部を結ぶ重要な交通路です。標高4,000m級の山々が連なる険しい地形のため、古くから交通の難所として知られていました。この峠を通過する道路は、首都カーブルから北部の要衝マザーリシャリーフへと続いており、アフガニスタンの物流において、非常に重要な役割を果たしています。

概要

サラン峠は、首都カーブルの北約100kmに位置し、古くから人々の往来が活発でした。しかし、険しい地形のため、冬期間はもちろんのこと、通常時でも自動車の通行は困難を極めていました。そのため、長らくの間、この峠は交通のボトルネックとなっていました。

サラン峠トンネル

1964年、当時のソビエト連邦の支援により、サラン峠に複数のトンネルが建設されました。このトンネルの完成により、積雪や天候などの条件が良ければ、冬期間でも通行が可能となりました。特に、最高地に位置する全長約2,600mのサラン峠トンネルは、標高3,363mに達し、完成当時は世界最高地に設置されたトンネルとして知られています。

しかし皮肉なことに、1980年代には、ソビエト軍がこのトンネルを通って首都カーブルへ侵攻しました。トンネル内外は、厳しい気象条件や度重なる戦闘により荒廃しており、特に冬季は、トンネル内部の漏水や車両から持ち込まれる雪によって路面が凍結し、通行が困難となる状況が続いています。2004年の時点では、車両が対面通行できる状態ではなく、隔日単位での交互通行が行われていました。2013年2月からは、アフガニスタン国際治安支援部隊（ISAF）による金融支援が行われ、修復工事が実施されましたが、トンネル内部のコンクリートには大きな亀裂や穴が多数見られるなど、依然として厳しい状況にあります。

サラン峠をめぐる戦闘

アフガニスタン紛争（1978年-1989年）時には、サラン峠は重要な補給路となったため、ムジャーヒディーンとソビエト軍との間で激しい戦闘が繰り広げられました。1984年7月には、峠付近に焼け焦げた装甲車が転がっている様子や、道路に弾痕が残っている様子が報じられました。

ソ連軍撤退後の1990年代の内戦（アフガニスタン紛争 (1989年-2001年)）時には、サラン峠は北部同盟とタリバンの前線となりました。戦闘が激化する中、マスードの軍隊はタリバンの北進を阻止するため、サラントンネルの両端を爆破し、トンネルの機能と安全性を著しく低下させました。戦後、瓦礫が除去され、トンネルの利用は再開されたものの、トンネル内部には照明がなく、路面は浸水するなど荒廃した状況が続いています。

災害

サラン峠は、非常に急峻な地形のため、道路は狭く、カーブが多いため、交通事故や転落事故が絶えません。特に冬期間は、雪崩が多発し、死者が出ることもあります。2002年には、沿道で雪崩が発生し、数十台の通行車両が巻き込まれて、死者7名、負傷者12名を出す災害が発生しました。さらに、2010年2月8日には、大規模な雪崩が相次いで発生し、166人以上が犠牲となりました。また、2022年12月17日には、石油タンクローリーが横転炎上する事故が発生し、少なくとも19人が死亡、32人が負傷するという大惨事が発生しました。

関連項目

* サラン峠トンネル火災：1982年11月3日、トンネル内でソビエト連邦軍の車両が対向車と衝突して発生した火災。多数の死傷者が出たものの、軍の情報統制のため詳細は不明のままです。

サラン峠は、その地理的な重要性から、長年にわたり紛争や災害に翻弄されてきました。現在も、多くの課題を抱えていますが、アフガニスタンの復興のためには、この峠の安定的な運用が不可欠です。

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