サラ・イ・ゴメス島

サラ・イ・ゴメス島

太平洋の広大な海原に、ポツンと浮かぶ小さな陸地があります。それがチリ領のサラ・イ・ゴメス島です。この島は南米大陸から遠く離れた絶海の孤島で、有名なイースター島のさらに北東に位置しています。地理的には、広大なポリネシア地域の最も東の端にあたります。島の姿は、かつての火山活動によって形成された岩肌が剥き出しになったままで、緑豊かな植生はほとんど見られません。まるで大海原に突き出た岩礁のような景観を呈しています。島の最高地点は南東部に位置しており、その標高はわずか30メートルほどと非常に低いのが特徴です。

日本への領有打診

この小さな孤島が日本の歴史と関わることになった出来事があります。それは1937年、昭和12年のことでした。当時、チリ政府は財政的な理由などから、自国の領土であるイースター島とサラ・イ・ゴメス島の売却を検討していました。その売却話が、同年6月初旬に日本政府に対し持ちかけられます。この交渉窓口となったのは、当時の在チリ日本公使であった三宅哲一郎氏でした。チリ側は三宅公使を通じて、これらの島々を日本に買い取ってもらえないかという打診を行ったのです。

日本政府内でこの打診について検討が進められる一方、事態はすぐに新たな展開を見せます。同年6月30日、三宅公使はチリ共和国大統領アルトゥーロ・アレッサンドリ・パルマと直接面会する機会を得ました。この謁見の場で、アレッサンドリ大統領は三宅公使に対し、チリ政府がイースター島とサラ・イ・ゴメス島の売却について、日本だけでなく、イギリスおよびアメリカ合衆国といった他の主要国にも同様の打診を行っている事実を伝えました。つまり、日本に対してのみ特別な提案をしていたわけではなく、国際的な買い手を探している状況だったのです。

この情報を得た三宅公使は、ただちに本国である外務省へ報告を行いました。報告の中で三宅公使は、チリ側が複数の国に売却を持ちかけている状況を踏まえ、日本が安易に購入に乗り出すのではなく、「しばらく事態の推移を静かに見守る（静観する）」ことが最も賢明な戦略であるとの見解を示しました。他国との競合や、島を取得することによる外交的な影響、あるいはそもそも絶海の孤島であることの価値など、様々な要素を考慮した上での進言であったと考えられます。

この三宅公使の報告と進言は、日本政府の最終的な判断に大きな影響を与えました。チリが他の国にも同じ提案をしている状況下で、国際的な摩擦を生みかねない島嶼の購入に積極的になる理由は乏しかったと言えます。また、絶海の孤島であるサラ・イ・ゴメス島の戦略的あるいは経済的な価値についても、当時の日本にとって最優先で獲得すべき対象とは見なされなかったのかもしれません。結果として、日本政府はチリ政府からの売却打診に対し、応じないことを決定しました。こうして、サラ・イ・ゴメス島は日本の領土となることなく、現在に至るまでチリ領として留まることになったのです。

まとめ

サラ・イ・ゴメス島は、その小さな面積と絶海の孤島という性質ゆえに、あまり知られていない島かもしれません。しかし、かつて太平洋における日本の活動が活発だった時代に、一時期ながらもその領有が検討されたという歴史的なエピソードを持つ島です。現在もチリ領として、その火山性の岩肌を大海原に晒しています。

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