サリュート7号

サリュート計画の集大成として建造された宇宙ステーション、サリュート7号は、1982年4月19日に現在のカザフスタン共和国にあるバイコヌール宇宙基地より、プロトンロケットによって打ち上げられました。当初はサリュート6号のバックアップとして準備されていましたが、後継となる大型宇宙ステーション「ミール」の計画が遅れたため、独立した宇宙ステーションとして1982年から1986年まで有人ミッションの拠点として活用されました。

サリュート7号は、その特徴として機体の両端にそれぞれドッキングポートを備えていました。これにより、ソユーズ宇宙船やプログレス補給船に加え、大型の与圧モジュールを結合させ、ステーションの機能や容積を拡張することが可能でした。実際に、1983年3月には実験モジュールであるコスモス1443号とドッキングし、同年8月まで運用しました。また、1985年10月には大型のコスモス1686号と結合し、こちらはサリュート7号が運用を終えるまで分離されませんでした。

最初の有人滞在は、打ち上げから間もない1982年5月にソユーズT-5のクルーによって実現しました。その後、1984年2月から10月にかけて行われたソユーズT-10ミッションは、サリュート7号での本格的な長期滞在の始まりとなりました。このミッションに参加した宇宙飛行士、ウラジーミル・ソロフィエフ氏は、当時としては画期的な237日間の長期滞在記録を樹立しました。ソユーズT-10、そしてそれに続くソユーズT-11、ソユーズT-12といったミッションを通じて、長期滞在クルーは合計6回の船外活動（宇宙遊泳）を実施し、様々な作業を行いました。ソユーズT-12のクルーが1984年7月末に地球へ帰還した後、サリュート7号は1985年2月まで一時的に無人状態となりました。

サリュート7号の運用期間中には、いくつかの深刻なトラブルが発生し、その都度、宇宙飛行士による困難な修理作業が必要とされました。電力供給能力を高めるための太陽電池パネルの追加設置や、推進薬配管の修理など、船内外で多岐にわたる保守作業が行われました。特に印象的なのは、1983年9月9日に発覚した燃料タンクの異常事態です。燃料配管の破裂によってタンクの圧力がほぼゼロになった原因を特定し、ソユーズT-10のクルーが船外活動によってこれを修理するという、危険性の高いミッションを遂行しました。

最大の危機は、1985年2月に無人状態だったサリュート7号との通信が突然途絶え、ステーションが完全に機能停止してしまったことです。姿勢制御を失い漂流する状態となったステーションの内部は、極低温となり氷に覆われました。この事態に対し、1985年6月にはソユーズT-13ミッションが「救助隊」として派遣されました。制御不能のステーションに対し、ソユーズ側のセンサーのみを頼りに行われた手動でのドッキング操縦は、宇宙開発史に残る偉業と称えられています。クルーは凍り付いた船内に乗り込み、困難を極める作業の末、ステーションの全機能を回復させることに成功しました。後の調査で、この機能停止はセンサーの異常が原因であったことが判明し、バッテリーの交換などが行われました。この劇的な救出・修理ミッションは、後に映画化もされています。

サリュート7号の有人運用は、1986年5月のソユーズT-15ミッションが最後となりました。このミッションでは、既に軌道上にあった宇宙ステーション「ミール」に一旦ドッキングした後、サリュート7号へと移動するという、世界初の異なる宇宙ステーション間での人員移動が実現しました。ソユーズT-15のクルーはサリュート7号でいくつかの実験を行った後、6月にステーションの機能を停止させ、実験機材の一部と共にミールへと帰還しました。

有人運用終了後も、サリュート7号は1986年8月に軌道高度を約460kmまで引き上げられ、無人での運用が続けられました。しかし、予想以上の大気抵抗による軌道低下や、1990年の太陽活動の活発化に伴う機材故障によって通信が不可能となり、制御不能な状態に陥りました。そして、打ち上げから約8年10ヶ月が経過した1991年2月7日、サリュート7号はアルゼンチン上空で大気圏に再突入し、その大部分が燃え尽きました。燃え残った破片の一部は地上に落下しましたが、人的・物的被害は報告されませんでした。サリュート7号は、ソ連の宇宙ステーション技術の集大成であると共に、数々の困難を乗り越えた粘り強い運用は、後のミール、そして国際宇宙ステーションへと続く長期有人宇宙活動の重要な経験となったのです。

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