サルバトール・ムンディ

サルバトール・ムンディ

『サルバトール・ムンディ』（Salvator Mundi）は、ラテン語で「世界の救世主」を意味し、イタリアの巨匠レオナルド・ダ・ヴィンチによって描かれたと広く信じられている油彩画です。この絵画は、青いローブを纏ったイエス・キリストの正面からの肖像を描いており、その神秘的な表情と精緻な筆致が観る者を魅了します。

概要

この作品は1500年頃、フランス王ルイ12世の依頼によって制作されたと考えられています。その後、イギリスのチャールズ1世の手に渡りましたが、1763年以降、所在が不明となっていました。長い間、その存在は忘れ去られ、1958年に競売にかけられた際には、複製画としてわずか45ポンドで落札されました。しかし、2005年に美術商が1175ドルで入手し修復を施した結果、ダ・ヴィンチの真筆である可能性が浮上しました。この発見は美術界に大きな衝撃を与え、真贋論争を巻き起こしました。

2008年には、ロンドンのナショナル・ギャラリーが5人の専門家による鑑定を依頼しましたが、結果は賛成1、保留3、反対1と意見が分かれました。それでも、2011年には同ギャラリーで展示が実現し、多くの美術愛好家の注目を集めました。その後、2013年にサザビーズのオークションで、スイス人美術商イヴ・ブーヴィエが8000万ドル（約90億円）で落札。さらにその後、ロシア人富豪ドミトリー・リボロフレフが1億2750万ドル（約140億円）で買い取りました。しかし、この取引額を巡り、リボロフレフは後に美術商を詐欺で訴える事態へと発展しました。

2017年、クリスティーズのオークションにおいて、手数料込みで4億5031万2500ドル（当時のレートで約508億円）という、美術品史上最高額で落札されました。この金額は、2015年にパブロ・ピカソの『アルジェの女たち バージョンO』が記録した1億7940万ドル（約200億円）を大幅に上回るものでした。落札者は長らく不明とされていましたが、2021年の報道により、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマーン皇太子が所有する豪華ヨット内に飾られていることが判明しました。クリスティーズでの落札以降、一般公開は一度もされていません。

真贋論争と様々な見解

アントワーヌ・ヴィトキーヌ監督のドキュメンタリー映画『ダ・ヴィンチは誰に微笑む』では、この作品がレオナルドの工房で制作された可能性は高いものの、レオナルド自身がどこまで直接関わったかについては議論の余地があることが指摘されています。一方で、ムハンマド皇太子がサウジアラビア政府を通じて欧米の美術界に対し、この作品がレオナルドの真筆であることを認めさせるために圧力をかけているという報道もあり、その動向が注目されています。

『サルバトール・ムンディ』は、その美しい描写と謎めいた来歴から、美術史における重要な作品の一つとして、今後も多くの人々の関心を集め続けることでしょう。

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