サンタ・クルス侯爵夫人の肖像

サンタ・クルス侯爵夫人の肖像

『サンタ・クルス侯爵夫人の肖像』（Retrato de la Marquesa de Santa Cruz）は、スペインの巨匠フランシスコ・デ・ゴヤによって1805年に制作された著名な肖像画です。この作品は、マドリードのプラド美術館に収蔵されており、油彩による作品としてはゴヤが描いた官能的な肖像画のひとつとして評価されています。

侯爵夫人ホアキナ・テレス＝ヒロン・イ・ピメンテル

この肖像画に描かれているのは、侯爵夫人ホアキナ・テレス＝ヒロン・イ・ピメンテルです。彼女は1784年に生まれ、第9代オスーナ公爵ペドロ・テレス＝ヒロンとその妻マリア・ホセファ・ピメンテルの娘です。ゴヤとオスーナ公爵夫妻は長年にわたって良好な関係を保っており、そのためか、ゴヤは1785年にオスーナ公爵夫妻の肖像画を、1788年にはその家族の肖像画も手掛けています。実は、侯爵夫人自身も幼い頃にその家族の一員として描かれているのです。

ホアキナは1801年に第10代サンタ・クルス侯爵ホセ・ガブリエル・デ・シルバ＝バサンと結婚し、肖像画が制作されたのはその4年後のことです。彼女は後に国王フェルナンド7世の妃マリア・クリスティーナに長女の養育係に任命され、また次女の養育係にも任命されるなど、非常に影響力のある女性として知られます。彼女は9人の子を持つ母でもあり、詩や音楽に深い理解を示したことから、当時の社交界で称賛されました。

作品の特徴

ゴヤによって描かれたこの肖像画では、21歳の侯爵夫人がハイウエストのエンパイアスタイルの白いドレスをまとい、赤いベルベット素材の長椅子に寝そべっています。彼女の頭には葡萄の冠がかぶせられ、右手には白いハンカチ、左手には竪琴の形をしたギターを持っており、観る者を見つめています。特に、ギターにはサンタ・クルス侯爵家特有のバスク地方の十字であるラウブルが描かれています。侯爵夫人の胸元には広いネックラインがあり、その下からはピンク色のチョピンと呼ばれる厚底靴が見えます。

この作品における葡萄の冠やギターは、彼女の音楽と詩に対する愛情を示すだけでなく、文芸の女神ムーサにちなんで彼女を象徴する要素でもあります。どの女神と見なされるかは不明瞭ですが、特にテルプシコラの存在が強く示唆されます。

影響と来歴

作品には非常に優れた保存状態が現れています。画面左隅にはゴヤの署名と制作年が記されており、その来歴も興味深いものです。肖像画は侯爵夫人の相続人によって持たれた後、ピエ・デ・コンチャ伯爵の手に渡り、1941年以降は美術収集家フェリックス・フェルナンデス・バルデスの所有となりました。やがて1986年に、スペイン政府によってプラド美術館へと受け継がれました。

また、カリフォルニア州のロサンゼルス・カウンティ美術館には、オリジナルとは認められていないバージョンも所蔵されていました。このバージョンは1965年に購入され、後に様々な理由から売却されています。これに関しては賛否が分かれますが、一説には有名なイメルダ・マルコスの手に渡ったとも言われており、彼女の絵画コレクションの押収時にこのバージョンが発見されたという報道もあります。

このように、『サンタ・クルス侯爵夫人の肖像』は、ゴヤの卓越した技法と深いテーマ性を持った作品であり、美術史においても高く評価され続けています。

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