サンチェスの子供たち

チャック・マンジョーネ『サンチェスの子供たち』

ジャズ・トランペット奏者、作曲家として知られるチャック・マンジョーネの音楽キャリアにおいて、特に重要な位置を占めるのが、楽曲および同名のアルバム『サンチェスの子供たち (Children Of Sanchez)』です。この作品は、人類学者オスカー・ルイスによるメキシコの貧困層の家族に関する研究を基にしたドキュメンタリー映画『サンチェスの子供たち』のサウンドトラックとして制作されました。映画自体は日本で劇場公開される機会はありませんでしたが、マンジョーネが手がけた主題歌は、国境を越えて多くのリスナーに感動を与えました。

音楽的特徴と評価

マンジョーネが得意とするフリューゲルホルンの、温かみがありながらもどこか物憂げな音色が、この楽曲の中心を成しています。彼の音楽は、ジャズの枠に留まらず、クラシックやラテン音楽のエッセンスを取り入れた情感豊かなサウンドスケープを描き出すことで知られており、本作もその例外ではありません。映画が描く家族の苦悩や希望といったテーマを、メロディックかつ壮大なオーケストレーションで見事に表現しています。この作品は商業的にも批評的にも大きな成功を収め、チャック・マンジョーネに自身にとって二度目となるグラミー賞をもたらし、彼の名声を不動のものとしました。

日本における影響

『サンチェスの子供たち』は、特に日本において、予想もしない形で広く認知されることとなりました。1978年に発売された三菱自動車の初代ミラージュのテレビコマーシャルソングとして採用されたことが、その最大の要因です。インストゥルメンタル曲でありながら、その印象的なメロディとマンジョーネならではの演奏は、お茶の間に深く浸透し、当時の日本の音楽シーンにおいて、フュージョンやクロスオーバーといったジャンルへの関心を高める一因ともなったのです。

アルバムおよび関連リリース

サウンドトラックアルバムとしての『サンチェスの子供たち』は、映画の世界観を表現するために長尺の楽曲を含むことから、二枚組LPとしてリリースされました。そのボリュームある内容には、映画の様々なシーンを彩る音楽が収録されています。また、アルバムからのシングルカットも行われ、タイトル曲である「Children Of Sanchez」が単曲としてリリースされました。このシングルのB面には、同時期のマンジョーネのアルバム『メイン・スクイーズ』に収録されていた楽曲「Doin' Everything With You」が収められています。

制作に携わった人々

この歴史的なサウンドトラックの制作には、チャック・マンジョーネ自身のフリューゲルホルン演奏はもちろんのこと、数多くの優れたミュージシャンやスタッフが参加しています。主要なバンドメンバーとして、ギターにグラント・ガイスマン、ドラムにジェームス・ブラットリーJr.、ベースにチャールズ・ミークスが名を連ねています。木管楽器奏者としてクリス・ヴァダーラがクラリネット、フルート、各種サックスを巧みに演奏し、サウンドに深みを加えました。また、ディック・デッカー、ジョージ・スティプソン、ジェリー・ペイル、ブラッド・ワルナールといった奏者がフレンチホルンパートを担当し、壮大なスケール感を演出しています。ヴォーカルにはドン・ポッターとフィリス・ハイマンが参加。ブラスセクションでは、トロンボーンのマヨ・ティアナ、トランペットのジェフ・タイジェク、ベース・トロンボーンのビル・ライヒェンバッハらが重要な役割を果たしました。

演奏陣に加え、アルバムの完成には多岐にわたる専門的なスタッフの貢献がありました。デジタルリマスターはデイヴ・コリンズが担当。エンジニアリング、ミキシング、エディシングといった音声処理には、マイク・グザウスキー、ドン・ポッター、ジェラルド・ヴィンキらが携わっています。アシスタントエンジニアとしてマイケル・フロンデリ、スティルマン・ケリー、ラリー・スウィストが制作を支えました。さらに、ジェフ・タイジェクはアソシエイトプロデューサーやコーディネーション、ストリングアレンジメントも兼任し、ジェラルド・ヴィンキはコンサートマスターとしても貢献するなど、多くのプロフェッショナルたちの力が結集して、『サンチェスの子供たち』は不朽の名作として世に送り出されたのです。

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