サントメ・プリンシペの音楽

アフリカ大陸の西岸沖合に位置する島国、サントメ・プリンシペ民主共和国。この国は、主要な島であるサントメ島とプリンシペ島から成り立っています。その文化は、多数を占めるアフリカ系住民の伝統を基盤としながらも、かつて宗主国であったポルトガルの影響を色濃く受けており、音楽の分野にもその複雑な背景が反映されています。

伝統的なリズムとパフォーマンス

サントメ・プリンシペの伝統音楽は、各島で独自のリズムを発展させてきました。サントメ島では「ウースア」や「ソコペ」といったリズミカルなスタイルが特徴的です。一方、プリンシペ島は「デクサ」と呼ばれるビートが広く親しまれています。これらのリズムや、それに合わせて踊られるダンスの発展には、ポルトガルの社交ダンスが重要な要素として組み込まれた可能性が指摘されています。

また、伝統的な音楽劇やパフォーマンスも受け継がれています。「チロリ」は、聖書やヨーロッパの物語に基づいた劇的なストーリーを、音楽とダンスを用いて表現するミュージカル・ダンス・パフォーマンスです。「ダンソコンゴ」も同様に、音楽、ダンス、演劇が一体となった総合的な芸能であり、地域社会において重要な役割を果たしています。

ポピュラー音楽の進化

サントメ・プリンシペの近代ポピュラー音楽の歴史を語る上で、クインテーロ・アグラーが1959年に結成したバンド、レオニノスの存在は欠かせません。彼らはこの国のポピュラー音楽のパイオニアであり、人々からは代弁者、文化の擁護者として高く評価されていました。特に、ポルトガルの植民地支配に対する批判を込めた楽曲「ンガンドゥ」を発表したことで知られ、この曲が原因で一時的にポルトガル当局からラジオ放送を禁止されるという経験もしました。レオニノスは1965年に解散しましたが、その精神は後の世代に引き継がれます。

レオニノスの後を継ぐように登場したのが、リオネル・アグイア率いるオス・アンチューズです。彼らは前世代の音楽スタイルを継承しつつ、アメリカ、アルゼンチン、コンゴ、キューバなど、より広範な国際的な音楽からの影響を取り入れました。さらに、エレキギターをはじめとする当時の最新技術を積極的に導入し、サントメ・プリンシペのポピュラー音楽を新たな段階へと発展させました。

オス・アンチューズ以外にも、キバンザスやアフリカ・ネグラといった多様なバンドが登場し、島の音楽シーンは一層豊かなものとなりました。中でも特筆すべきは、バンド「ミンデロ」によって生み出された「プクサ」という新しいジャンルです。これは、サントメ島の伝統的なリズムと、隣国アンゴラの音楽スタイルであるレヴィータを巧みに融合させた独自のスタイルであり、その後のサントメ・プリンシペ音楽に大きな影響を与えました。

近年の動向と国際的な活動

20世紀後半にかけて、サントメ・プリンシペ国内ではザルコやマンジェレグアといった優れたソングライターたちが登場し、地元の人々から強い支持を得ました。一方で、カミーロ・ドミンゴス、ジュカ、フィリペ・サント、アソレアノ、ガパなど、多くのサントメ出身ミュージシャンが旧宗主国の首都リスボンに活動拠点を移し、そこで独自の音楽シーンを築き上げました。

このリスボンを拠点とする傾向は21世紀に入ってからも続いており、フラヴィア、ブルーナ・リー、マリッシャー、カレマといった新しい世代のアーティストたちが、国際的な視野を持って音楽活動を展開しています。彼らは故郷のリズムや伝統を大切にしつつ、世界の様々な音楽スタイルを取り入れ、サントメ・プリンシペの音楽の可能性を広げています。

近隣国の音楽との関係では、アンゴラ発祥のポップ音楽である「キゾンバ」も挙げられます。ズークから派生したこのジャンルは、ポルトガル語や英語で歌われることが多く、多くのアーティストによって表現されています。サントメ・プリンシペの音楽も、こうした周辺地域の多様なスタイルと相互に影響を与え合いながら発展を続けていると考えられます。

サントメ・プリンシペの音楽は、アフリカとポルトガルの文化が交錯する独自の歴史の中で育まれ、伝統的なリズムから、植民地時代を経て現代に至るポピュラー音楽まで、多様なスタイルを持っています。島国内だけでなく、国外でも活動するアーティストたちの手によって、そのユニークなサウンドは世界に発信されています。

（参考文献に基づき執筆）

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