サンドマン (ヴァーティゴ)

サンドマン：夢と現実の狭間を巡る壮大な物語

『サンドマン』（原題：The Sandman）は、ニール・ゲイマンによって創作され、1989年から1996年にかけてDCコミックスより全75号に渡って連載されたコミックブックシリーズです。単なるコミックの枠を超え、幅広い読者層を獲得したカルト的人気を誇り、グラフィックノベルという新たな刊行形態の普及にも大きく貢献しました。批評家からも絶賛され、1991年にはシリーズ中の「真夏の夜の夢」が世界幻想文学大賞最優秀短編賞を受賞するなど、数々の賞に輝いています。

物語の概要

主人公は、夢そのものの化身である「ドリーム」こと「モルフェウス」です。永遠の存在であるエンドレスと呼ばれる7人の兄弟姉妹の一人で、死（デス）、欲望（デザイア）らと共に宇宙全体の概念や現象を管理しています。物語は、ドリームが70年間も魔術師に囚われ、そこから脱出した後に始まる、失われた力の回復と過去の過ちの償い、そして自らの存在意義の探求を描いた壮大なファンタジーです。

初期はダークホラー的な要素が強かったものの、物語が進むにつれて古代神話の要素を取り入れ、精緻なファンタジーへと変貌を遂げます。ドリームは、冷酷で厳格な古代神のような存在から、自身の感情と向き合い、変化を遂げていく悲劇的な主人公へと成長していきます。舞台は、ドリームが支配する夢の王国「ドリーミング」を中心に、地獄、妖精の国、アスガルドなど多様な世界を舞台に物語が展開します。DCユニバースと公式に繋がっていますが、スーパーヒーローは初期を除きほとんど登場しません。歴史上の人物や出来事を題材にした短編エピソードも多数含まれており、シェイクスピアが登場するエピソードなどもあります。

各巻の内容

全75号は、10巻のペーパーバック単行本にまとめられています。第3、6、8巻は1話完結の短編集ですが、それ以外の巻はそれぞれ一つの長編ストーリーが軸となり、テーマを補完する短編が挿入される構成です。

第1巻：プレリュード&ノクターン

最初の長編「モア・ザン・ルビーズ」では、ドリームが魔術師に囚われた過去、脱獄後の復讐、そして失われた力の象徴である砂袋、ヘルメット、ルビーを取り戻す冒険が描かれます。地獄やジャスティス・リーグといったDCユニバースの要素も登場し、ドリームの冷酷さとプライドが際立ちます。独立した物語「翼の音」では、姉であるデスが登場し、ドリームの心の変化を示唆します。

第2巻：ドールズハウス

長編「ドールズハウス」では、ドリームの兄弟姉妹であるデザイアとデスペアによる陰謀が描かれます。人間の少女ローズと彼女の周りの人々を通して、逃亡した悪夢や「夢の渦」の脅威、そしてドリーム自身の過去や家族との関係が深く掘り下げられます。短編「砂の中の物語」はナダとドリームの悲恋を描きます。

第3巻：ドリームカントリー

一話完結の短編集。世界幻想文学大賞を受賞した「真夏の夜の夢」では、ドリームがシェイクスピアに同名の戯曲を依頼する様子が描かれています。

第4巻：シーズンズ・オブ・ミスト

長編「ミストの季節」では、ドリームが過去の過ちを償うため、地獄の支配者ルシファーと対峙する様子が描かれます。様々な神々が登場し、地獄の所有権を巡る争いが繰り広げられます。

第5巻：ゲーム・オブ・ユー

女性主人公バービーを軸に、ジェンダーや社会的な疎外、アイデンティティの確立といったテーマが扱われています。トランスジェンダーやLGBTQ+のキャラクターが登場しますが、その描写については議論の的となっています。

第6巻：フェーブル&リフレクション

独立した短編集。オルフェウス神話を基にした「オルフェウスの詩」は、ドリームと息子の悲劇的な関係の重要な伏線となります。

第7巻：ブリーフ・ライヴズ

デリリウムとドリームが、出奔した兄弟デストラクションを探す旅に出ます。デストラクションの行方や、ドリームと息子のオルフェウスの悲しい関係が明らかになります。

第8巻：ワールズ・エンド

旅籠に集まった人々がそれぞれの物語を語る枠物語形式。ドリームの死が近づいていることを暗示するエピソードがいくつか含まれています。

第9巻：カインドリー・ワンズ

シリーズ最大のボリュームを持つ長編「慈愛深い者たち」。ロキとパックの企みから始まる、ドリームの悲劇的な運命が描かれ、過去の様々なエピソードが絡み合います。

第10巻：ウェイク

ドリームの死と新しいドリームの誕生、そして登場人物たちのその後を描いた最終巻です。ホブ・ガドリングの物語もここで完結します。

制作背景と影響

『サンドマン』は、ニール・ゲイマンの革新的なストーリーテリングと、多様なアーティストたちの個性的なアートワークによって生み出されました。従来のコミックの枠を超えた、文学性と芸術性を兼ね備えた作品であり、多くのコミックや小説、映画などに影響を与えました。ゴシック文化とも深く結びついており、そのダークでスタイリッシュな世界観は多くのファンを魅了し続けています。しかし、一部の描写については批判もあります。特に第5巻におけるマイノリティの扱いについては、賛否両論があります。

メディア展開

『サンドマン』は、映画化やテレビドラマ化など、様々なメディア展開が行われています。2022年には、Netflixで実写ドラマシリーズが配信され、世界中で高い人気を博しました。また、オーディオドラマ版も配信されています。

まとめ

『サンドマン』は、夢と現実、神話と現代、そして人間の感情を巧みに織り交ぜた、他に類を見ない傑作です。その独特の世界観と奥深いストーリーは、今後も多くの読者やクリエイターを魅了し続けるでしょう。

もう一度検索