サンフアン移住地

サンフアン移住地

ボリビアのサンタ・クルス県に位置するサンフアン・デ・ヤパカニ自治体は、日本人入植地であるサンフアン移住地を中心に発展した地域です。1950年代の開拓以降、多くの日本人移住者とその子孫が定住し、ボリビア国内でも日本語が通じる稀有な町として知られています。特に第二次世界大戦後、主に日本の九州地方から海を渡った人々が暮らしており、現在ではその二世、三世といった日系の人々がコミュニティの中心を担っています。

移住の歴史と二つの波

この地に日本人移住が実現した背景には、二つの異なる流れがありました。

一つは、実業家の西川利通氏がサトウキビ栽培と製糖事業を目指して私的に企画した企業移民です。もう一つは、第二次世界大戦後の日本の経済復興と過剰な人口問題に対応するため、日本とボリビア両国政府が合意した国家的な計画移住です。

前者の西川氏による移民は、1955年に88名の日本人によって開始され、「西川移民」として記憶されています。しかし、本格的な移住が始まったのは、両国政府間の協定に基づき1957年頃からです。この計画移住によって、最終的に300家族を超える約1700名の日本人が海を渡りました。

実業家・西川利通と企業移民の始まり

この地の日本人移住の端緒となったのは、実業家の西川利通氏が主導した企業移民です。西川氏は第二次世界大戦前、インドネシアのジャワ島で製糖業を営んでいましたが、戦後日本へ引き揚げて設立した「大日本精糖会社」では、国内事情から事業展開に限界を感じていました。そこで、サトウキビ栽培のための海外への移住を計画し、外務省の助言を得てボリビアを選択しました。

1950年には自ら現地を視察し、移住者の受け入れ準備として「サンタクルス日本人農業協同組合」の設立や宿舎建設などを進めました。帰国後、日本政府およびボリビア政府双方の許可を得て移住者の募集を開始しました。

1955年5月15日、日本全国から選ばれた16家族98名がオランダ船に乗り神戸港を出港しました。長い航海を経て、同年7月末には14家族88名がサンフアンの地に第一歩を記しました。彼らは手斧一本で原生林を切り開き、道路を造り、その両側に一家族あたり50ヘクタールの土地を与えられました。

しかし、期待されたサトウキビ栽培は軌道に乗らず、始めた米作だけでは生活は困難を極めました。彼らは携行してきた家財道具などを売却して当面の生活費に充てざるを得ませんでしたが、この資金を農業協同組合が不正に流用していたことが発覚し、組合は解散、西川氏の製糖事業計画は頓挫しました。これにより、無一文となった西川氏は1956年に家族とともに日本へ帰国し、先に入植した人々は広大な密林の中に残されることとなりました。西川氏は後に日本の飲料会社で副社長を務めています。

自治体としての発展と現在の活動

過酷な初期の経験を乗り越えた移住地は順調に発展を遂げました。1965年にはボリビア政府から独立した村としての自治権を獲得し、さらに2001年には市へと昇格を果たしました。

現在のサンフアンでは、コメや大豆、小麦、鶏卵といった多様な農産物の生産を基盤として、ボリビア経済に大きく貢献しています。日本の国際協力機構（JICA）は、前身である国際協力事業団の時代から長年にわたり、農業技術指導などの分野でこの地への支援を継続してきました。その結果、サンフアンは日本の先進的な農業技術をボリビアに導入するためのモデルケースとしての役割も担っています。

多くの困難を乗り越え、サンフアン移住地は現在、日系二世、三世を中心としたコミュニティとして、ボリビアの地で独自の文化と農業を育んでいます。

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