サンボウカン

三宝柑：和歌山を代表する希少な柑橘

三宝柑（サンボウ柑、学名：Citrus sulcata hort. ex. Ik. Takahashi）は、ミカン科に属する柑橘類の一種です。春の季語としても用いられるこの柑橘は、和歌山県、特に湯浅町栖原地区で主に生産され、「栖原三宝柑」として知られています。

特徴：独特の形状と風味

その果実の形状は、ダルマ型で、見た目はデコポンとよく似ています。果底、つまりへたの周辺部分が膨らんだ独特のフォルムが特徴です。果皮は柔らかく剥きやすいものの、厚みがあり、果肉は少ないのが特徴です。種は非常に多く、一般的な柑橘類と比べて多い点が挙げられます。

濃黄色の果肉からは多くの果汁が得られ、爽やかな味わいが楽しめます。しかしながら、「す上がり」と呼ばれる、果肉がパサパサとした米粒状になる現象が起こりやすいという点にも注意が必要です。この特徴的な食感は、三宝柑独特の風味と捉えることもできます。

かつては、ナツミカンが出回る前の季節に重宝される果物として人気を集め、昭和40年代には栖原地区だけで年間2000トン以上の生産量を誇っていました。しかし、近年は生産量が減少しており、2010年時点では150トン程度にまで落ち込んでいます。それでも、和歌山県全体の収穫量763トン（2010年）のうち、98.5％を栖原地区が占めるなど、和歌山県を代表する柑橘としてその地位を保っています。

興味深いことに、長野県銘菓として有名な「みすず飴」の6種類の味のうちの一つとして、三宝柑の味が長年使用されています。他の5種類のフレーバーは、アンズ、ウメ、ブドウ、モモ、リンゴです。

歴史：藩主への献上品から銘菓へ

三宝柑の起源は、江戸時代文政年間（1818年～1829年）にまで遡ります。和歌山藩士、野中為之助の邸内にあった一株の木が、現在の三宝柑の原木とされています。その希少性から、当時の藩主である徳川治宝公に献上されたと言われています。

その珍しさから「三宝柑」と名付けられ、藩外への持ち出しが禁止され、一般への植栽も許可されませんでした。名前の由来は、三方に載せて和歌山城の殿様に献上されていたという説が有力です。

[学名]は、高橋郁郎氏（1913年）によって命名されましたが、現在では、明確な親株のない交配種と考えられ、分類学上の真正な種とはみなされていない傾向にあります。これは、田中長三郎氏が提唱したミカン属160種のほとんどにも当てはまる見解です。

このように、長い歴史と、生産量の減少という現状を抱える三宝柑は、和歌山県、ひいては日本の柑橘の歴史を語る上で重要な存在と言えるでしょう。その希少性と独特の風味は、これからも多くの人々を魅了し続けることでしょう。

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