サンマルコス砦

サンマルコス砦：アメリカ最古の石造要塞の歴史

サンマルコス砦（Castillo de San Marcos）は、アメリカ合衆国本土に現存する最古の石造要塞です。フロリダ州セントオーガスティン市のマタンザス湾西岸に位置し、その歴史は17世紀にまで遡ります。この要塞は、スペイン、イギリス、アメリカ合衆国という異なる国の支配下で、様々な役割を果たしてきました。

建設の始まりとスペイン統治時代

1672年、フロリダがスペイン帝国の一部であった時代に、サンマルコス砦の建設は始まりました。この地は、1565年にスペイン人探検家ペドロ・メネンデス・デ・アヴィレスによって開拓され、その後、度重なる木造の砦が建設されました。1668年にイギリスの私掠船による破壊的な攻撃を受けたことを契機に、スペイン王妃マリアナ・デ・アウストリアは、石造の堅牢な要塞の建設を命じました。

要塞の設計はスペイン人技術者イグナシオ・ダサが担当し、建設には先住民やキューバから連れてこられた強制労働者が従事しました。使用された石材は、コキーナと呼ばれる太古の貝殻が固まってできた石灰岩で、アナスタシア島の採石場から運ばれました。建設は23年にも及び、1695年にようやく完成しました。

要塞は星形の構造をしており、四つの堡塁、ラヴリン、グレイシス、そして堀を擁していました。堡塁にはそれぞれサンペドロ、サンアグスティン、サンカルロス、サンパブロと名付けられ、大砲やマスケット銃を配置するための銃眼が設けられていました。特にグレイシスは、攻撃者が要塞の大砲に対して上向きに攻め込まざるを得ないように設計されており、防御上の大きな利点がありました。

イギリスによる占領とアメリカ独立戦争

1702年、アン女王戦争の際に、イギリス軍による最初の攻囲を受けましたが、スペイン艦隊の到着によって撃退されました。1738年には、要塞の内部が再設計・改築され、砲撃からの防御力が強化されました。1740年には、ジェンキンスの耳の戦争をきっかけに、再びイギリス軍の攻撃を受けましたが、要塞は持ちこたえ、イギリス軍は撤退しました。

1763年のパリ条約により、フロリダはイギリスの支配下に入り、要塞は聖マーク要塞と改名されました。イギリスは要塞を軍刑務所として使用し、アメリカ独立戦争中には、サウスカロライナの副総督クリストファー・ガズデンも収監されました。1783年のパリ条約でフロリダは再びスペインの支配下に戻り、要塞はサンマルコス砦という元の名前に戻されました。

アメリカ合衆国の統治と要塞の役割の変化

1821年、スペインはフロリダをアメリカ合衆国に割譲し、要塞はマリオン要塞と改名されました。アメリカの支配下では、要塞は主にセミノール族などの先住民を収監するための軍刑務所として利用されました。1837年には、セミノール族の族長オシーオウラが和平交渉中に捕らえられ、要塞に収容されました。また、コアクーチーを含む19人のセミノール族が脱獄する事件も発生しました。

南北戦争中、フロリダはアメリカ連合国から離脱し、一時的に南軍が要塞を占領しました。しかし、1862年には北軍が要塞を奪還し、その後は再び軍刑務所として使用されました。1870年代には、西部で起きたインディアン戦争の余波で、多くの平原インディアンが要塞に収監されました。この時期には、リチャード・ヘンリー・プラットが囚人の環境改善に尽力し、教育プログラムを導入しました。プラットは、後にインディアン寄宿学校運動を主導し、その最初の学校であるカーライル・インディアン実業学校を設立しました。

要塞の終焉と国立公園としての再生

1898年、米西戦争の脱走兵が収容されたのを最後に、要塞は現役を引退しました。1924年には国立モニュメントに指定され、1933年には国立公園局に移管されました。1942年には、連邦議会によって正式にサンマルコス砦と改名され、その歴史的価値が再評価されました。現在は、観光名所として多くの人々が訪れる人気のスポットとなっています。1966年には、アメリカ合衆国国家歴史登録財に登録されました。

サンマルコス砦は、その長い歴史の中で、軍事要塞、刑務所、そして文化遺産として、多様な役割を担ってきました。この要塞の物語は、アメリカの歴史における複雑な側面を反映しており、訪れる人々に深い歴史的教訓を与え続けています。

要塞の構成

サンマルコス砦は、コキーナと呼ばれる特有の石材で造られた星形の要塞です。以下のような特徴的な構成要素を持ちます。

四つの堡塁: サンペドロ、サンアグスティン、サンカルロス、サンパブロという四つの堡塁が、要塞の四隅に位置しています。
ラヴリン: サリーポートを守るための三角形の堡塁。
グレイシス: 陸側からの攻撃を困難にするための傾斜地。
堀: 要塞の周囲を囲む堀。
銃眼: 大砲やマスケット銃を配置するための開口部。
ヴォールト天井: 砲撃に対する防御力を高めるためのアーチ型の天井。

これらの構成要素は、要塞の防御機能を最大限に高めるために設計されています。特に、コキーナは砲弾の衝撃を吸収する効果があり、要塞の強度を高める役割を果たしました。

サンマルコス砦の現在

現在、サンマルコス砦は国立公園局によって管理されており、年間を通して多くの観光客が訪れています。要塞内部の見学に加え、様々な展示やイベントを通じて、その歴史を学ぶことができます。また、マタンザス要塞ナショナル・モニュメントと一体で管理され、周辺の自然環境も保護されています。

サンマルコス砦は、アメリカの歴史と文化を伝える重要な遺産であり、その歴史的な価値は今日でも高く評価されています。

もう一度検索