サンヴァラ系タントラ

サンヴァラ系タントラとは

サンヴァラ系タントラ（サンヴァラけいタントラ）は、仏教の後期密教に属する一連の経典を指します。この群は、チベット仏教の無上瑜伽タントラに分類され、豊かな宗教的背景を持っています。特に、サンヴァラタントラは、母タントラの一つである『サマーヨーガ・タントラ』（Samayoga Tantra）に源を持ち、そこから様々な形式で展開されています。同じく母タントラに属するヘーヴァジュラ系統とともに、サンヴァラ系タントラは重要な位置を占めています。

サンヴァラ系タントラの歴史は9世紀後半にさかのぼります。この時期に成立した『チャクラサンヴァラ・タントラ』（Cakrasamvara Tantra）は、サンヴァラ系のタントラの先駆けとなる作品であり、また『シュリーヘールカ・アビダーナ』や『ラグサンヴァラ』といった重要な著作も含まれます。これらのタントラは、チベット密教の発展に大きく寄与しました。

サンヴァラという言葉の意味

「サンヴァラ」という言葉は、一般に「至福」を意味すると解釈されています。このため、漢字では「勝楽」や「最勝楽」などとも表現されることがあります。しかし、他の解釈として「秘すること」や「守ること」という意味もあり、サンヴァラの教えはこれらの概念とも密接に関連しています。

サンヴァラ系タントラの主な経典

サンヴァラ系タントラには、以下のような主な経典が存在します。これらは、成立の時期ごとに分類されます。

第1期

• - チャクラサンヴァラ・タントラ（Cakrasamvara Tantra） （勝楽タントラ）

- 『シュリーヘールカ・アビダーナ（Śrī Heruka Abhidhāna）』
- 『ラグサンヴァラ（Laghusamvara）』

第2期

• - アビダーノーッタラ・タントラ（Abhidanottara Tantra）
• - サンプトードバヴァ・タントラ（Samputodbhava Tantra）
• - ヘールカービュダヤ・タントラ（Herukabhyudaya Tantra）
• - ヨーギニーサンチャーラ・タントラ（Yoginisamcara Tantra）
• - ヴァジュラダーカ・タントラ（Vajradaka Tantra）

第3期

• - サンヴァローダヤ・タントラ（Samvarodaya Tantra） （最勝楽出現タントラ）
• - ダーカールナヴァ・タントラ（Dakarnava Tantra）
• - ヴァーラーヒーカルパ・タントラ（Varahikalpa Tantra）
• - ジュニャーノーダヤ・タントラ（Jnanodaya Tantra）
• - ヨーギニージャーラ・タントラ（Yoginijala Tantra）

これらの経典は、密教の修行者にとって重要な教えを包含しており、実践を通じての精神的な成長を促す役割を果たしています。サンヴァラ系タントラの教えは、守ること、秘むことはもちろん、至福に至る道の探求においても中心的な位置を占めています。

参考文献

• - 杉木恒彦『サンヴァラ系密教の諸相―行者・聖地・身体・時間・死生』東信堂、2007年。
• - 田中公明「『金剛場荘厳タントラ』の成立とインド密教史上における位置」『東洋文化研究所紀要』第152巻、2007年。

サンヴァラ系タントラは、その深遠な思想と多層的なシステムにより、現代においても多くの研究者や実践者からの注目を浴び続けています。

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