無上瑜伽タントラ

無上瑜伽タントラ：チベット[[仏教]]における究極の経典群

無上瑜伽タントラ（むじょうゆがタントラ）は、8世紀後半以降にインドで成立した後期密教経典群の総称であり、チベット[[仏教]]においては、密教経典の最高峰と位置付けられています。チベット[[仏教]]の著名な学者プトゥンによる分類では、密教経典は4つの種類に分類され、無上瑜伽タントラはその最終段階を成す経典群として位置づけられています。この分類は、ゲルク派、サキャ派、カギュ派といった新訳派の宗派で広く受け入れられていますが、旧訳派であるニンマ派では独自の分類法が用いられています。

無上瑜伽タントラの分類

無上瑜伽タントラは、「父タントラ」、「母タントラ」、「双入不二タントラ」の3つに分類されます。「父タントラ」は方便を表し、「母タントラ」は智慧（般若）を表すとされています。「双入不二タントラ」は、父タントラと母タントラの統合を図った経典と解釈されています。

これらの経典の灌頂には、2日から7日間を要するものが多く、多くのタントラ経典では、灌頂参加人数を25名以下と制限しています。参加人数を超えた場合は、灌頂とそれに付随する教えは無効となります。

父タントラ

父タントラの中核は、仏とその性的パートナーが性的ヨーガを実践し、曼荼羅を生成する過程を追体験する修行です。

母タントラ

母タントラは、性的要素に加え、呪殺や黒魔術的な要素も含まれると解釈される場合がありますが、その本質は、修行者の身体におけるチャクラや「五秘密」といった内的ヨーガを重視した心身変容、そして仏の智慧との合一にあります。

双入不二タントラ

代表的な双入不二タントラである『時輪タントラ』は、父タントラと母タントラの統合を図った経典であり、イスラーム勢力の台頭を反映して、イスラームとの最終戦争を予言する記述も含まれています。経典の分類については、宗派によって見解が異なり、プトゥンは『時輪タントラ』を不二タントラに分類した一方で、ゲルク派では『バジュラバイラヴァ』を、サキャ派では『ヘーヴァジュラ』を不二タントラとする見解もあります。ツォンカパは、『時輪タントラ』を母タントラに分類しています。

尊格

無上瑜伽タントラでは、様々な仏や尊格が崇敬されています。金剛界五仏の一尊である阿閦如来は、後期密教では中心的な位置を占めるようになりました。その他、法身普賢（ニンマ派）、金剛薩埵（カギュ派）、持金剛（ゲルク派、カギュ派）などが本初仏として崇敬されています。また、密集金剛、大威徳金剛、呼金剛、勝楽金剛、時輪金剛といった忿怒相の歓喜仏（ヤブユム）も重要な尊格です。これらの尊格は、チベット密教の各宗派の教義や修法の基礎を支える「守護尊」（イダム）として尊ばれ、仏像、曼荼羅、タンカなどの美術作品にも多く見られます。

五大金剛法

チベット密教では、「五大金剛法」と呼ばれる修法体系が成立しています。これは、五大尊格を中心とした実践体系です。

無上瑜伽タントラへの評価

プトゥンは『時輪タントラ』を最高峰の経典と位置付けましたが、弟子であるレンダワや、ゲルク派の祖であるツォンカパは、その評価に異議を唱えました。ツォンカパは『秘密集会タントラ』を最高の密教経典と評価し、多くの著作をその注釈に費やしています。

成立経緯

無上瑜伽タントラの成立は、インド仏教がヒンドゥー教の台頭に対抗する過程と深く関わっています。5世紀頃から、ヒンドゥー教的要素を取り込んだ密教が発展し、7世紀には『大日経』や『金剛頂経』といった経典が成立しました。しかし、インド仏教はさらなる発展を求め、「性」と「チャクラ」をより深く取り込んだ無上瑜伽タントラを生み出しました。『幻化網タントラ』、『大幻化網タントラ』、『秘密集会タントラ』、『時輪タントラ』といった経典が成立し、「性的ヨーガ」が実践されました。性的ヨーガは初期仏教の戒律と衝突するため、観想による実践が試みられましたが、イスラーム勢力の侵攻によりインド仏教が衰退する中で、その課題はチベット[[仏教]]に引き継がれました。

性的ヨーガ

後期密教における性的ヨーガは、初期仏教の戒律と矛盾する大きな課題でした。インド密教では、女性パートナーを伴う性的ヨーガが実際に行われていましたが、ツォンカパは性的ヨーガの有効性を認めつつも、実践を禁止し、観想のみを推奨しました。ゲルク派は、厳しい戒律と独身を重視することで多くの支持を得て、チベット[[仏教]]最大宗派に成長しました。他の宗派も同様に、僧院を中心とした組織化を進めました。

信仰上での位置付け

無上瑜伽タントラを学ぶには、灌頂を受けることが不可欠です。灌頂を受けずに学ぶことは非常に危険とされ、ツォンカパは、灌頂なしの学習は無意味であり、地獄に堕ちると警告しています。

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