サン・アグスティン
サン・アグスティン遺跡群
南米コロンビア南西部、雄大なマグダレナ川の源流域にあたる山岳地帯に、サン・アグスティン遺跡群は広範囲にわたって点在しています。標高1200メートルから2000メートルの高地に位置し、その範囲は約500平方キロメートルにも及びます。首都ボゴタからは南西へおよそ350キロメートルの距離に位置しており、主要な遺跡だけでも30箇所近く確認されています。これは南米大陸における先コロンブス期の遺跡としては、最大級の規模を誇るものです。この遺跡群の最大の特徴は、他に類を見ない独特な意匠が施された石彫が数多く発見されている点にあります。
地理的背景と文化
サン・アグスティン遺跡群が立地する場所は、古代の広範な交易ネットワークにおいて極めて重要な要衝であったと考えられています。東はカケタ川を経てアマゾン川へ、西はパティア川から太平洋へ、そして北はマグダレナ川とカウカ川を経由してカリブ海へと繋がる、まさに交通の結節点でした。この地で独自の文化を築いた人々は、このような交易活動に加え、トウモロコシの栽培や、果物などの食用植物を採集することで生計を立てていたと推測されています。
発見と研究の歴史
この遺跡群に関する最初の記録は、1757年にスペイン人修道士サンタ・ヒエルトゥディスが著した旅行記に遡ります。しかし、その後しばらくの間、伝説の黄金郷「エル・ドラド」を夢見る冒険家や、一攫千金を狙う者たちによって、残念ながら一部の遺跡は略奪の被害に遭いました。遺跡の学術的な重要性が正当に評価されるようになるのは、20世紀初頭のことです。1913年から1914年にかけてマグダレナ川流域を調査したドイツの人類学者コンラード＝テオドール＝プロイスによって、サン・アグスティンの価値が改めて認識され、その研究成果は1929年に報告書として公刊されました。その後も、1956年の書籍『自然の驚異』で大きく紹介されたり、シヌー文化の研究でも知られるライヘル・ドルマトフなど、国内外の多くの研究者によって、今日まで継続的な調査・研究が進められています。
文化の時期と埋葬
サン・アグスティン遺跡群で見つかった最古の遺物は、放射性炭素年代測定の結果から紀元前500年頃にまで遡ることが判明しており、この時期には既に川沿いに集落が形成されていたと考えられます。文化が発展し、大規模な構造物が築かれるようになるのは5世紀頃から8世紀頃にかけてです。この時期には、石彫を配置した盛り土（マウンド）や、大きな石材を組み合わせたドルメン（支石墓）状の小規模な神殿が造られるようになりました。これらの構造物は、主に墳墓として、また祖先を祀る儀式に関連する遺構であることが明らかになっています。
埋葬の形態は非常に多様性に富んでいます。古墳に類似した墳丘墓には、直径が25メートルに達するものや、立派な石室を備えたものが見られます。また、死後の世界への長い旅路を象徴しているかのような、長い通路（羨道）を持つ長方形の墳墓も発見されています。社会的に高い地位にあった人物が葬られたと思われる石棺には、幾何学的な模様が刻まれており、しばしば故人に付き従う人物を模したと考えられる石像が隣に配されています。石棺自体にも、石材をくり抜いた丸彫りのものと、複数の石板を組み合わせた箱式のものがあります。これらの大規模な墳丘墓やドルメン状の巨石墓の他にも、地面に穴を掘った土坑墓、土器の甕を用いた甕棺墓、さらには火葬や二次埋葬、集団埋葬といった様々な形態の墓が確認されています。こうした埋葬方法の多様性は、当時の社会における身分や地位の違いを反映しているものと考えられています。
独特な石彫群
サン・アグスティン遺跡群の最大の特徴ともいえるのが、そこに点在する400体近い独特な石彫群です。これらの石彫は、石材を立体的に彫り出した丸彫りのものや、石板に刻まれたものがあります。モチーフとしては、ペルーのチャビン文化の石彫にも類似が見られる、ネコ科動物のような特徴を持ち、牙を剥き出しにした半人半獣の姿をした神格や、異形の像が特に目を引きます。その他にも、神官や戦士を表す人物像、蛇、ワニ、トカゲ、カエル、サンショウウオ、そして猛禽類など、多様な動植物が表現されています。墓に伴う石彫は、天井石を支えるかのように、中心となる人物像（あるいは石棺）を取り囲む形で二体の従者像が配置される組み合わせが多く見られます。一方で、中には高さが4メートルから5メートルにも及ぶ巨大な石像も存在します。これらの石彫の造形には一つの傾向が見られます。それは、頭部、顔、そして手は非常に精緻に彫り込まれているのに対し、下半身は比較的簡素に表現されている点です。石彫の様式は年代によって変化し、大まかに三つの時期に区分できると考えられています。前期のものはシンプルで線が少なく、中期になると立体的で詳細なレリーフ彫刻が本格的に登場します。後期の石彫には、より特徴的な様式を持った石彫や、何らかの情報を記したかのような石板が現れます。
世界遺産への登録
サン・アグスティン遺跡群のうち、特に保存状態が良く学術的に重要な区域が、1995年にユネスコの世界遺産リストに登録されました。具体的には、サン・アグスティンの中心市街地から北西へ約3.5キロメートル離れた場所に位置するサン・アグスティン考古公園をはじめ、ロス・イドロスの丘、そしてラス・ピエドラスの丘に広がる遺跡群が含まれています。この世界遺産は、「現存する、あるいは消滅した文化的伝統や文明に関する、唯一無二あるいは少なくとも非常に稀な証拠」を示すものとして、世界遺産登録基準の(3)に合致すると評価されました。サン・アグスティン遺跡群は、アンデス文明やプレ・インカ期を含む南米の古代文化を理解する上で、極めて貴重な手がかりを提供しています。
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