サン・ジョルジョ山

サン・ジョルジョ山：太古の生命を物語る山

サン・ジョルジョ山（モンテ・サン・ジョルジョ）は、スイスのティチーノ州南部に位置する標高1,097mの山です。その特徴的なピラミッド型の形状と、緑豊かな山肌が印象的です。しかし、この山の真価は、その地層に眠る豊富な化石にあります。中生代の中期三畳紀（約2億4500万年前から2億3000万年前）の地層からは、数多くの貴重な化石が発見されており、その学術的な価値は世界的に認められています。

位置と地理

サン・ジョルジョ山は、ルガーノ湖の南端が二つに分かれる場所に位置しており、イタリアとの国境に近接しています。行政的には、メリデ、リーヴァ・サン・ヴィターレ、ブルジノ・アルシツィオの3つの市にまたがっています。

化石の宝庫

この地域で産出する化石は、サン・ジョルジョ山だけでなく、地層が繋がっているイタリア側のベザーノ一帯でも見つかっています。三畳紀当時、この地域は亜熱帯気候で、水深数メートルのラグーンが広がっていました。ラグーンは一部が暗礁で外海と隔てられており、独特の生態系を育んでいました。

19世紀には既に化石が発見されていましたが、その後のチューリッヒ大学とミラノ大学による調査で、この地が非常に貴重な化石産地であることが明らかになりました。現在までに発見された化石は、10,000点以上にのぼります。その内訳は、30種類の爬虫類（中には全長6mに達すると推定される海棲爬虫類も含む）、80種類の魚類、約100種類の無脊椎動物（希少な昆虫、二枚貝、アンモナイト、棘皮動物、甲殻類など）、そして多数の植物化石と微化石です。これらの化石は、当時の海洋生態系だけでなく、陸地との境界に位置していたラグーンという特殊な環境に生息していた生物の証拠も提供しています。

特に注目すべきは、この地域で初めて発見された珍しい化石が数多く存在することです。これらの化石は、セルピアーノ、メリデ、チェレージオ（ルガーノ湖の別名）といった地元の地名が学名に採用されています。例を挙げると、Daonella serpianensis、Serpianosaurus mirigiolensis、Tanystropheus meridensis、ケレシオサウルス（Ceresiosaurus）などがあります。これらの化石についてより深く知りたい場合は、メリデの博物館を訪れることをお勧めします。

発見の歴史

この地域の化石発見は、イタリア領内で工業用タール質の結晶片岩を採掘していた際に、魚類や爬虫類の化石が産出したことがきっかけでした。1854年にエミリオ・コルナリアによって最初の発見報告がなされましたが、本格的な発掘調査は1863年になってイタリア自然科学会によって開始されました。

その後、1919年には古生物学者ベルンハルト・パイヤーがメリデ市内でも化石を発見し、サン・ジョルジョ山の化石に注目が集まるようになりました。1924年から1975年にかけてチューリッヒ大学が組織的に発掘調査を実施し、大量の化石が発見されました。現在、サン・ジョルジョ山での化石発掘は厳格に規制されており、大学などの高等研究機関以外による発掘は認められていません。

世界遺産登録

サン・ジョルジョ山は、その卓越した普遍的価値が認められ、2003年にスイスの世界遺産として登録されました。その後、2010年にはイタリア側の地域も登録範囲に含められ、より広範な保護が行われるようになりました。

登録基準

この世界遺産は、以下の登録基準（8）を満たしています。

(8) 地球の歴史上の主要な段階を示す顕著な見本であるもの。これには生物の記録、地形の発達における重要な地学的進行過程、重要な地形的特性、自然地理的特性などが含まれる。
この基準は、サン・ジョルジョ山から産出する三畳紀の化石群が、地球の歴史における重要な段階を示すものであることから適用されました。

アクセス

サン・ジョルジョ山へのアクセスには、いくつかのルートがあります。

メンドリージョからは、メリデ市セルピアーノ方面行きの道路を利用します。
ルガーノ湖沿いをブルジノ・アルシツィオまで進み、リーヴァ・サン・ヴィターレからセルピアーノ（標高650m）行きのケーブルカーを利用するルートもあります。
ルガーノ湖畔の小道からは、徒歩約2時間で山頂に到達できます。

サン・ジョルジョ山は、太古の地球と生命の歴史を物語る貴重な場所です。その豊かな自然と化石は、訪れる人々に驚きと感動を与えてくれます。

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