サン・マルコ1号

サン・マルコ1号：イタリア宇宙開発の黎明を告げる衛星

イタリアが初めて宇宙空間に送り出した人工衛星は、「サン・マルコ1号」（San Marco 1、またはSan Marco Aとも呼ばれる）です。この衛星は、イタリアの国立研究協議会の下部組織であったイタリア宇宙研究委員会（CRS：Commissione per le Ricerche Spaziali）によって設計・開発されました。サン・マルコ1号は、イタリアとアメリカ合衆国が協力して推進した一連の宇宙計画「サン・マルコ計画」において、最初に打ち上げられた機体であり、全5機のシリーズの口火を切る役割を果たしました。その名前は、計画において重要な役割を担った海上プラットフォーム「サン・マルコ・プラットフォーム」に由来しています。

国際協力による開発の道のり

サン・マルコ計画の開発は、1961年にイタリア政府（アミントレ・ファンファーニ首相のもと）がCRSによる国産人工衛星の研究開発計画を承認したことから始まります。当時の宇宙開発の世界では、自国のロケットで人工衛星を打ち上げる能力を持つ国は限られており、イタリアはまだ独自のロケット技術や宇宙開発を担う専門人材が不足していました。

このため、イタリアはアメリカ航空宇宙局（NASA）との共同計画としてサン・マルコ計画を進めることになりました。NASAは衛星打上げ用のスカウトロケットを提供するとともに、イタリア人技術者チームの育成に協力しました。衛星本体の設計と製造は、CRSに所属するイタリア人科学者や技術者チームが中心となって行われ、この開発チームには、著名な物理学者であるエドアルド・アマルディ氏らも参画しました。

電離層研究という目的と試験衛星の役割

サン・マルコ衛星シリーズ全体の主要な目的は、地球を取り巻く大気上層部に位置する電離層の研究にありました。電離層は無線通信にも影響を与える重要な領域です。

サン・マルコ1号は、この電離層研究を目標としつつも、シリーズ最初の機体として技術的な検証や宇宙空間での運用ノウハウ蓄積に重きを置いた試験衛星としての性格が強く、搭載された科学観測機器の種類は比較的限定的でした。しかし、イタリアが自ら開発した衛星が宇宙で機能することを確認することは、その後のイタリア独自の宇宙活動を展開する上で不可欠な第一歩でした。

歴史的な打上げと軌道上の活動

サン・マルコ1号の打上げは、1964年12月15日、協定世界時（UTC）午後8時24分に行われました。アメリカ合衆国東海岸にあるNASAのワロップス飛行施設から、イタリア人チームによって、アメリカ製のスカウトロケットを用いて打ち上げられました。

軌道に投入されたサン・マルコ1号は、約9ヶ月間にわたって運用を続けました。計画された試験や観測を終えた後、1965年9月13日に地球の大気圏に再突入し、その役目を終えました。

イタリア宇宙開発の礎

サン・マルコ1号の成功は、イタリアが独自の衛星を開発・運用する能力を持つことを証明し、イタリア宇宙開発の歴史における画期的な出来事となりました。国際協力の成功事例としても位置づけられ、この計画で培われた技術と経験は、その後のイタリアの宇宙科学研究や衛星開発の基盤となり、欧州宇宙機関（ESA）におけるイタリアの役割拡大にも繋がっていくことになります。サン・マルコ1号は、イタリアが宇宙への扉を開いた記念碑的な存在です。

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