サーチ・フォー・ザ・ニュー・ランド

ジャズ史に名を刻む偉大なトランペット奏者、リー・モーガン。彼が1964年にスタジオで録音し、その2年後の1966年に世に送り出されたアルバムが『サーチ・フォー・ザ・ニュー・ランド』（Search for the New Land）です。これは、モーガンがブルーノート・レコードに残した数々の名盤の中でも、特に重要な位置を占める作品として知られています。録音から発表までの間に生じた特殊な経緯、そして商業的成功と批評家からの絶賛が相まって、本作はリー・モーガンのディスコグラフィにおいて独特の輝きを放っています。

本作の発表には少々特殊な経緯がありました。録音は1964年に行われたにもかかわらず、実際にリリースされたのは1966年になってからなのです。この遅延の背景には、前年に発表され、驚異的な大ヒットを記録したモーガンのアルバム『ザ・サイドワインダー』（1963年録音、1964年発売）の成功がありました。『ザ・サイドワインダー』の商業的な成功を受け、レコード会社はそれに続く作品として、より近い時期に録音されていた別のアルバム『ザ・ランプローラー』（1965年4月録音）の発売を優先させたのです。同作は『ザ・サイドワインダー』と共通するポピュラーな要素を持つと期待されたのかもしれません。

しかし、結果的に『ザ・ランプローラー』は期待されたほどのセールスには繋がらず、全米アルバムチャートであるBillboard 200入りを逃してしまいます。対照的に、後回しにされていた本作『サーチ・フォー・ザ・ニュー・ランド』は、1966年11月26日付のBillboard 200において143位を記録。その後も合計3週にわたりチャート圏内にとどまり、商業的な成功を収めることとなりました。発表の遅れが、かえって作品の評価や受容に良い影響を与えた可能性も示唆されます。

音楽評論家からの評価も非常に高いです。特に、著名な音楽評論サイト「オールミュージック」のスコット・ヤナウは、本作に最高の評価である5つ星を与え、「リー・モーガンの最高傑作の一つ」であると同時に、「ハード・バップの限界を押し広げた」作品だと絶賛しています。これは、本作が単なるハード・バップの枠内に収まらない、革新的で意欲的な内容であることを示唆しており、その後のジャズの発展にも影響を与えた可能性がうかがえます。

収録曲は全て、リー・モーガン自身によって作曲されています。
サーチ・フォー・ザ・ニュー・ランド - "Search for the New Land" - 15:51
ザ・ジョーカー - "The Joker" - 5:08
Mr.ケニヤッタ - "Mr. Kenyatta" - 8:49
メランコリー - "Melancholee" - 6:18
モーガン・ザ・パイレーツ - "Morgan the Pirate" - 6:28

アルバムの冒頭を飾るタイトル曲「サーチ・フォー・ザ・ニュー・ランド」は、実に15分を超える長尺な楽曲であり、本作の持つ壮大で探求的な雰囲気を象徴しています。この長大なタイトル曲を始め、「ザ・ジョーカー」「Mr.ケニヤッタ」「メランコリー」「モーガン・ザ・パイレーツ」といった楽曲が収録されており、それぞれがモーガンの作曲家としての才能と、バンドメンバーの卓越した演奏力を示しています。特に「Mr.ケニヤッタ」は、アフリカの指導者の名を冠していると推測され、当時の社会的・政治的背景とも結びつけて論じられることがあります。

本作に参加したミュージシャンは、当時のジャズシーンを代表する錚々たる顔ぶれです。
リー・モーガン - トランペット
ウェイン・ショーター - テナー・サクソフォーン
グラント・グリーン - ギター
ハービー・ハンコック - ピアノ
レジー・ワークマン - ベース
* ビリー・ヒギンス - ドラムス

トランペットのリー・モーガンに加え、テナー・サクソフォーンにはジョン・コルトレーン・カルテットでも活躍したウェイン・ショーター、ギターには卓越したソロイストであるグラント・グリーン、ピアノには後のモダンジャズを牽引する巨匠ハービー・ハンコック、ベースにはマイルス・デイヴィス・グループなど多数のプロジェクトで活躍したレジー・ワークマン、そしてドラムスにはアート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズなどで知られるビリー・ヒギンスが名を連ねています。この豪華なセクステット（六重奏団）編成が、各楽器間の豊かな対話と、複雑でありながらも有機的なアンサンブルを生み出しており、本作の音楽的な深みを一層増しています。彼らは単なるサポートメンバーではなく、それぞれが自己の個性を発揮しつつ、リー・モーガンのリーダーシップのもと、高次元の演奏を繰り広げています。

本作は、ハード・バップというジャンルが成熟期を迎え、次なる展開を模索していた時期に制作されました。タイトルが示唆するように、「新しい土地（New Land）」を探求するかのような、挑戦的な精神がアルバム全体に貫かれています。特にタイトル曲の長い構成や、他の楽曲に見られるメロディやハーモニーの探求は、ハード・バップの持つ熱気とスウィング感を保ちつつも、より自由で壮大な表現へと踏み出そうとする意欲を感じさせます。商業的な成功と批評家からの絶賛、そして参加メンバーの豪華さ、どれをとっても本作がリー・モーガンのキャリアにおける、また1960年代のジャズにおける重要なマイルストーンであることは疑いの余地がありません。ハード・バップの枠を超えた、探求心溢れる名盤として、今なお多くのジャズファンに愛され続けています。

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