サールィチ岬の海戦

サールィチ岬の海戦

第一次世界大戦初期、クリミア半島南端のサールィチ岬沖で、ロシア帝国艦隊とドイツ帝国・オスマン帝国艦隊の間で繰り広げられた海戦です。この海戦は、事実上、ロシアの前弩級戦艦エフスターフィイとドイツ・オスマン帝国の巡洋戦艦ヤウズ・スルタン・セリム（ドイツ名ゲーベン）との一騎打ちとなりました。

背景

1914年8月、ドイツ帝国はオスマン帝国へ地中海と黒海の優勢を築くため、巡洋戦艦ゲーベンと小型巡洋艦ブレスラウを譲渡しました。これらはオスマン帝国海軍に編入されたものの、ドイツ人乗員によって指揮されており、実質的にはドイツ海軍の艦艇とみなされました。ゲーベンの性能はロシアの旧式戦艦を圧倒しており、ロシア艦隊は個艦での行動を避け、艦隊を組んで行動する必要がありました。ロシア側はゲーベンの速力を過大評価していましたが、実際には修理能力の制限から低速でした。

ロシア海軍の対策

ドイツからオスマン帝国へ譲渡された新型艦は、ロシアにとって大きな脅威でした。ロシアは黒海艦隊への新鋭戦艦の配備を急ぐ一方、旧式戦艦の近代化を進めました。黒海艦隊は、一目標への集中砲火戦術を習得し、ゲーベンとの直接対決に備えていました。しかし、ボスポラス海峡の封鎖は困難であり、艦艇は周期的に交代せざるを得ませんでした。

海戦の経緯

11月2日、ロシア黒海艦隊はアナトリア半島沿岸での軍事作戦に出撃しました。一方、オスマン帝国艦隊司令官のスション少将は、ロシア艦隊をセヴァストーポリへの帰路で迎撃しようと計画しました。11月4日、ゲーベンとブレスラウはボスポラス海峡を出撃し、クリミア半島を目指しました。ロシア艦隊司令官は、ゲーベンの出撃を察知し警戒を強めました。艦隊は偶然にもドイツ艦隊へ向かう航路を辿っていました。

戦闘の経過

11月5日、サールィチ岬沖で両艦隊は衝突しました。通報艦アルマースがゲーベンとブレスラウを発見し、霧の中、エフスターフィイとゲーベンの一騎打ちが始まりました。ロシア艦隊は敵艦との距離を縮め、駆逐艦隊は密集隊形を取りました。しかし、濃い霧のため、射撃管制は困難を極めました。無線が誤った距離を伝えたため、多くの砲弾は外れましたが、エフスターフィイの砲撃はゲーベンを捉えました。一方、駆逐艦隊は水雷攻撃を試みましたが中止されました。

エフスターフィイの最初の斉射は、ゲーベンの装甲を貫通し、多数の戦死者を出しました。ゲーベンは合計3発の305mm砲弾と11発の203mmまたは152mm砲弾を受けました。一方、エフスターフィイは4発の命中弾を受けました。14分後、ゲーベンは高速で戦場から離脱しました。

結果

この海戦により、ゲーベンは2週間の修理を余儀なくされ、115名の戦死者と58名の負傷者を出しました。一方、エフスターフィイは33名の戦死者と25名の負傷者を出しました。この海戦は、前弩級艦が弩級艦に勝利した珍しい事例として知られています。

参加艦艇

ドイツ帝国・オスマン帝国
巡洋戦艦: ゲーベン / ヤウズ・スルタン・セリム
小型巡洋艦: ブレスラウ / ミディッリ
ロシア帝国
戦艦: エフスターフィイ、イオアン・ズラトウースト、パンテレイモン、トリー・スヴャチーチェリャ、ロスチスラーフ
一等防護巡洋艦: パーミャチ・メルクーリヤ、カグール
通報艦（水上機巡洋艦）: アルマース
駆逐艦: グネーヴヌイ、デールスキイ、ベスポコーイヌイ、プロンジーテリヌイ、レイテナーント・シェスタコーフ、カピターン・サーケン、レイテナーント・ザツァリョーンヌイ、カピターン＝レイテナーント・バラーノフ、他4隻

この海戦は、第一次世界大戦における海戦の複雑さと、新旧の艦艇が入り乱れて戦った状況を象徴する出来事でした。

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